象さん仰ぐイーストメボン遺跡    2019年10月訪問

イースト・メボン遺跡: East Mebon temple  は、アンコールワット遺跡大回りコースの、ちょうど中間点あたりにある10世紀の中規模遺跡です。

「イースト」メボンという呼び名は、明らかに観光客向けの訳語です。けれども、クメール語による呼び方は、ほとんど聞こえてきません。

2-3の遺跡見物のあと、イースト・メボンに立ち寄ったとき、暑さと感性の低下で、パスしようかなと思い始めました。けれども、ベージュ色に染まった主塔を見たら、「せっかく来たのだから、やっぱ見物して行こ!」という気持ちになりました。
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( 意外と端正で美しいイーストメボン正面 )

写真には写り込んでいませんが、こういう人気(ひとけ)の少ない遺跡の入口にも、ちゃんと係官がいて、観光客を見かけると木陰からやってきて入場券をチェックします。

イーストメボンは、階段状の遺跡ですが、積み上げが低いので、直登感がなくゆったり気分で登れます。境内も広いので、のんびりした気分になれました。つぎはぎの目立たない象の彫刻が塀の隅に立っていました。スポット的に修復したのかも知れません。
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( 原型を保った象の彫刻が鎮座する内陣の壁 )
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( 見事な象さんの像 )

「パオーッ」、「パオーッ」と、鳴きながら神々の領域を守っている感じが、よく出ていました。そばにやってきて、私と同じように、鼻を床につけた象の彫刻をしげしげと眺めていた欧米系のおばさんも、「いいね」みたいに笑みを浮かべていました。私も、同感です。

イーストメボンには、象ばかりでなく、狛犬役のライオンもいました。
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(  ライオンが狛犬代わりの本堂への階段 )

赤茶色のレンガ造りの塔は、原型を残して崩れてきていますが、何体かの動物の像はかなりきれいな姿で鎮座しています。予算が少ないなかでテーマを決めて修復しているようならば、好感の持てる方針です。
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( 崩落しながらも美しいベージュ色をした本堂と塔の数々 )
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( 中央の塔を間近で仰ぎ見る )

現代カンボジアは、国家主導の仏教国なので、ヒンズー寺院遺跡ながらイースト・メボンの本堂内にも仏像が祀ってあります。政治勢力が、「過去もいいけれど、現在も忘れるなよ」と、言っているようです。ここまでやられると、少しばかり不自然な感じがしました。

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(  中央のお堂内に祀られた仏様 )

仏様の前に立ち、一礼してから上を仰ぐと青天井。数々の塔も、いつの間にか頂上部が崩れて煙突状態になっているようです。詳しいことは知りませんが、ヒンズー寺院の塔のてっぺんのリンガを破壊したときに頂上に穴が開いたのかも知れません。宗教感情が高ぶると人間が不寛容になるのは、昔も今も同じです。

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(  塔の頂上部はたいてい崩れて青天井 )

はらはらと崩れて行きながらも、意外としっかり立っているイーストメボンをぐるりと回って、再び外に出ました。私の乗ったトゥクトゥクは、舗装された大回りコースの一本道を走ります。
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( イーストメボン付近の田んぼがすがすがしい )

イーストメボン付近まで来ると、遺跡と遺跡の間に田んぼや湿地が見え隠れします。うっそうとした密林風の森ばかり目にしていたので、こうして開けた場所に来ると、気分もほっとします。電線も標識もない、黄緑と緑ばっかりの風景に癒されました。暑い空気ながらも、トゥクトゥクに吹き付ける風に、汗もすこしばかり引きました。
「ほっ・・・・」

2020年3月記                           了