ビルバオの歓び
その5
5-1) うっとり街角アート
ビルバオ新市街のあちこちに街角アートがあります。
どのオブジェも自信たっぷりに鎮座しています。さわったり、蹴ったりしたくらいで傾くようなヤワなものはありません。
私も、オブジェの全部はおろか、半分も知りません。適当に通りをぶらついて、「あっ、あったあ」と、心の中で声をあげるのが、とても楽しみです。気に入るアートもあれば、なんじゃこれ、というものもあります。少なくとも言えることは、道徳的だったり、可もなく不可もないものはない、ということです。
「街角のオブジェは、自分の感性で楽しむもの」と、私は思っています。後で少し調べて、作品や作者の名前を書くようにしていますが、それは街角オブジェの楽しみの本質ではありません。
「パッと見で、ピーンときましたか?」ただ、それだけだと思います。
まず、RENFEのアバンド駅コンコースにある巨大なステンドグラスとブロンズの顔です。
正面入り口からエスカレーターで2階のコンコースに上がってきて、後ろを振り返ると目に入ります。
ステンドグラスは、50年くらい経っているかも知れませんが、ブロンズの顔は20年くらい前のものです。
駅に似合わないオブジェに、思わず笑みがこぼれてしまいます。
私は、こういうの好きです。
( アバンド駅コンコース上のビスカヤ風景を描いたステンドグラスと、ブロンズの顔 )
( アバンド駅のステンドグラスは少なくとも30年物。1987年ごろ )
ブロンズ製の顔を、まじまじと見てみましょう。人間の苦悩を表現しているようですが、じっと見ていると、こちらが笑い飛ばされているような気分になりました。
( 顔の彫刻を拡大して見たところ )
ビルバオ市役所前には、輪っかのオブジェがあります。”21世紀への指切りげんまん”、という印象でした。
大きくて、けっこう遠くから見えるので、ついつい近寄っていきます。後で調べると、バスク出身のチリダという方の作品でした。私は、いいとも、悪いとも感じませんでした。
( ビルバオ市役所前の ひねり輪っか。エドアルド・チリダ作 )
( 輪っかアートを、しげしげと見る )
ネルビオン川沿い、サルベコスビアのたもとには、板チョコを猛スピードで人間が突き抜けたときに、人間の形にくり抜かれたような彫刻と、通った人物と思しき像があります。ちょっと遠くから1枚撮影したきりでした。手前のアイスクリーム屋さんの方に、気が向いていたので、えへへ・・・・・・・・、です。
( サルベコ・スビア下にちらりと見える、板チョコ通り抜けの彫刻、遠景 )
ビルバオの都心、アバンド地区の大通りや、交差点の広場にも彫像、彫刻がちょくちょく置いてあります。
まず、モユア広場から北へ伸びるエルチラ通りにある、アルミ箔をぐしゃぐしゃにしたような彫刻。そばの地面に作家名、作品名が書いてあるので、読んだはずなのですが、そのまま通り過ぎたようです。
( 鉄で作った、くしゃくしゃアルミ箔のオブジェ )
モユア広場から、歩行者専用になっているエルチラ通りを1ブロック南下したあたりの交差点にあるのが、鋳物の風鈴です。スペインの誇る巨匠ベラスケスの代表作のひとつ「女官たち:Las Meninas」を題材にした彫刻です。頭のふんわりした髪型や、裾がふくれたスカートで、女官であることが分かります。私は、けっこう気に入りました。見るからに重そうな鋳物の量感が、派手ですが守旧的な宮廷人たちのイメージにぴったりです。下の方を蹴飛ばしても、びくともしません。大奥の怖さを体現しているようでした。
( 鋳物の風鈴、こと、ベラスケスの女官たちのイメージの像 )
オブジェでは、ありませんが、アバンド地区でも、ところどころに20世紀初頭の一軒家の豪邸が残っています。観光客に一番目につくのは、グッゲンハイム美術館から川沿いに東方向に歩いて行くと目にする屋敷でしょう。多くの方が、「あれは、何だ」と書いていますが、かのアスレチック・ビルバオの本部です。公式行事や記者会見を行なうときに使います。
下の写真は、インダウチュ広場の近くに残っている同じ雰囲気の邸宅。今はクリニックが入居しているようです。博物館ではありません。
(オブジェではないけれど。古民家みっけ )
ビルバオのオブジェは、超モダンを軸に据えています。また、一様に躍動感があるところがすごいです。都市の活力がある証拠だと思いました。
5-2) メトロがアート
ビルバオ最大、最強の街角アートは、もしかしたらメトロビルバオの駅かも知れません。
グッゲンハイム美術館の建物に続いて、称賛の的になっているのが、メトロの出入口のガラスドーム。私も、ガラス芋虫と呼びたい建造物です。いったん、このデザインを覚えると、一目でメトロだと分かる優れもの。イギリス人建築家ノーマン・フォスター:Norman Foster 作です。
ビルバオ市当局も、新たに地下鉄を作るにあたって、造形物には、グッゲンハイム美術館並みのユニークさを追求した姿勢が伝わってきます。
( メトロビルバオのインダウチュ駅西口のガラスのドーム状出入口 )
( モユア広場には2つ、3つとガラス芋虫がある)
モユア駅の改札へ向かう通路の壁に、メトロビルバオ・デザインの生みの親フォスター氏のサインをレリーフにしたものが貼ってあります。写真撮るのを忘れました。
( ガラス芋虫を下から見上げた状態 )
ビルバオのメトロは1995年に部分開業しました。20数年経っても、手入れがよく、ガラスは光輝き、エスカレーターにも傷や落書きがありません。潔癖でクソ真面目なバスク気質を感じます。だからこそ、「アートで都市を再生する」という、破天荒な方針でビルバオを変えた、当局の柔らか頭と実行力に、ただ、ひたすら敬意をささげるばかりです。
人のご縁がなく、ビジネスや観光で短期滞在した人に対しても、もう一度じっくり見たい、住んでもいいかな、と思わせる都市の魅力を創り出したのですから、ものすごいことです。
( 暗闇に輝くメトロ出入口。サントゥルツィ駅 )
地下駅の構内は、一つか二つの例外を除いて、ほぼ、同じデザインです。駅名標を隠せば、どの駅か分からなくなると思います。もちろん、バリア・フリーもばっちり。全駅のホームの端にエレベーターが設置してあります。駅のトンネルは、天井が高く圧迫感がありません。
この造りは、大阪市営地下鉄の御堂筋線、梅田駅などと同じです。昭和初期の大阪と、20世紀末のビルバオには、幸運にも、将来にわたり市民が誇れるものを作ろうという志を持った指導者がいたようです。
ただ、21世紀スタイルのメトロを目指したのにもかかわらず、ホームドアがないのは、何か理由があるのでしょうか。分かりません。
( 駅の構造も、地下区間は、ほとんどそっくり )
( 統一デザインのホームの様子と電車 )
2017年4月に、ビルバオメトロの3号線が開通しました。この系統は、1、2号線とは違って、ウスコトレン:Euskotren という別会社の経営です。案内標識や運賃体系は統一していますが、駅のデザインは既存のものと異なります。色使いも青が主体です。利用方法は、既存の路線と変わりませんので、戸惑うことはありません。
( 駅名標や、案内掲示も統一デザイン。インダウチュ駅 )
( 新規開業の3号線でも、駅の案内は色違いの統一デザイン。サスピカレアク / カスコ・ビエホ駅 )
メトロの駅の出入口は、すべてガラス芋虫スタイルではありません。ざっと見て、半分くらいかな、という感じです。下は、アバンド駅北側のメトロ出入口ですが、ガラス芋虫スタイルでも良さような場所なのに、平凡な階段むき出し型です。何か訳ありなのでしょうか、と思わず考えてしまいました。
( ガラス芋虫ではないメトロ出入口。アバンド駅東南出口 )
メトロの地上区間の駅も、もちろんフォスター氏の設計ですが、地下駅とデザインは少し異なります。それでも、とてもすっきりしていて、陽光が入る明るい空間です。ビルバオは雨が多いのですが、ホーム屋根は少ししかありません。これで、改善要望は出ないのかな、と思ってしまいました。
( メトロ地上区間の駅の様子。地下駅のデザインに似せてある。エチェバリ駅 )
ビルバオ地下鉄は、きれい、美しい、安い、待たない、安全安心、です。街角アートのひとつですが、実用的な交通手段ですので、どんどん利用しました。
了