落書き見やるアンコールワットの十字回廊      2019年10月訪問

アンコールワット見物の順路は、第1回廊の次は十字回廊である場合が多いです。第2回廊の影があまりにうすく、人の列が十字回廊に向けて進んでいるからです。
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( 左の角が、十文字の中心の十字回廊 )

十字回廊は、堂内の通路が、ちょうど十文字に交差する場所にちなんでいます。その付近が参拝者の目を惹きつけることからつけられた呼称のようです。
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( 石組みもぴったり十文字に組み合わさった十字回廊中心 )
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( 十字回廊内部の列柱。保存状態は良い方 )

このあたりの石組みは、あまりずれがありません。女神のデヴァターも、ぴったり合わさって美しい姿を見せてくれているので、歩いていても満足感が高いです。赤っぽい石の色も、少し華やかさを出していると感じました。

石柱の裾が削られていますが、天井に巣くっていたコウモリのフンが床に積もり、石柱が化学変化を起こして溶けてしまったためのこと。かつては、かなり荒廃していたんだなあと思いました。

十字回廊の一角には仏像が安置されてあり、お坊さんが待機しています。アンコールワットが現役のお寺であることが唯一感じられる空間です。お布施を出すと、お祈りをしてもらえるようです。私は、読経をお願いしなかったので、お布施の相場は分かりません。

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( 十字回廊の隅に祀ってある仏像と参拝客 )

十字回廊の仏像近辺の柱には昔の落書きがいっぱいあります。日本人の落書きもあると聞いていたので、参拝者の邪魔にならないように柱を見て回りましたが、どうも見落としたようです。200年から300年前は、きっとこのあたりが参拝の中心だったのですね。お布施を多めに出し、「お坊様の目を盗んで、ちょっと記念に」という感じだったのでしょうか。

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( 十字回廊の柱周りにいっぱい書かれた昔の落書き )

落書きで一番多いのが漢字。中国人が落書き好きとは思いたくありませんが、何世紀も前から、それなりに行き来が多かったことの証でもあるようです。

日本人の落書きの主は、17世紀前半の朱印船貿易の時代の訪問者で、森本右近太夫一房(もりもと・うこんだゆう・かずふさ)という武士のもので、1632年1月のものだそうです。他にも、日本人のもの思われる落書きが10カ所以上あるようですが、詳しいことは、Wilipediaや詳細ガイドを当たった方がよいでしょう。

当時の日本人は、アンコールワットのヒンドゥー的な建造美や、権力から打ち捨てられた状況を見て、どう感じたのでしょう。クメール王朝が滅亡して200年しか経っていない時期であったので、アンコールワットも、まだ、凛として聳えていたのかも知れません。仏教寺院に改宗され、人気の少ない堂内を歩き、コウモリの群れに声高に叫ばれながら、往時の栄耀栄華をしのんだのでしょうか。

2019年12月記                          了