東洋のモナリザに振られたバンテアイ・スレイ 2019年10月訪問
バンテアイ・スレイ寺院遺跡:Banteay Srei Temple は、「東洋のモナリザ」の異名を取る美しいデヴァター像のレリーフがとっても有名です。彫りが深く、色合いが美しいのです。
( デヴァターが彫ってある3つの塔 )
バンテアイ・スレイのデヴァター像は、近くまで寄って見ることができません。かなり遠目に、眼を凝らして睨むような距離感です。
「観光写真と全然、違うやんけ!」
「本物を自身の眼で見たという自己満足感以外、何もないじゃん」
悪く言えば、このような印象です。どうやら遺跡保護、盗難防止のために、ここ20年ほどは見物客をレリーフ近くの回廊まで入れない方針とのこと。1923年末に、後のフランス人作家のアンドレ・マルローがデヴァター像を盗み出そうとした事件が、大きなトラウマになっているようです。帝国主義の風潮が未だに消えやらぬ時代でしたから、エジプトやメソポタミアから古代彫刻などを平然と持ち出していた頃の奢った気分があったことは想像に難くありません。
「遺跡泥棒を捕まえたカンボジア当局は、ラッキーな面もあったとはいえ偉い!」
こんなことを頭の中で思い出しながら、本堂の周りを歩いても、東洋のモナリザらしきデヴァターは目に入りません。あまりに遠すぎて、私の視力では判別がつかなかったのです。
ちなみに、『東洋のモナリザ』と称されているデヴァターは、以下のサイトなどで見られます。
https://mapio.net/pic/p-10649029/
( 肉眼ではデヴァターは遠くに小さく見えるだけ )
「どれが、『東洋のモナリザ』か、全然、ヒントもないぞ」
頭を抱えるしかありません。くだんのデヴァターの近くに行けば、壁の隅に小さな解説板が貼ってあり、どれが『東洋のモナリザ』か図示くらいしてあるだろうという期待がものの見事に外れました。
( ルーブル美術館のモナリザ案内表示 )
ちなみに、元祖『モナリザ』の方は、実物があるルーブル美術館の展示室の近くに、写真付きで『モナリザはあっち』という矢印案内がぺたぺた貼ってあります。『東洋』の方も、図示くらいはあるだろうという想定は、きわめて甘い発想でした。「途上国の観光案内の適当さを舐めんじゃねえよ」という声がびんびんと脳裏に響きました。
そこで他力本願。三々五々やってくるガイド付きのグループ客のそばに、それとなく寄って歩き、デヴァター像の解説を盗み聞きしようとしました。
しかし、これも失敗。4~5人のガイドさんは、全員、特定のデヴァターを指さすことなく本堂周辺の解説をしておしまい。客の方も、ふんふんと聞いて写真を撮るだけで、本堂から出て行ってしまいました。
『お前ら、デヴァター最高級の美女を見る気あんのか。何しにバンテアイ・スレイに来たんか!』と、内心、怒り心頭ですが、現実は「東洋のモナリザ」という下馬評ほどの注目度はないようです。「東洋のモナリザ」と、騒いでいるのは日本人ばかりのようです。現地のシェム・リアップ市の観光案内や、英語の総合案内ブログには、モナリザのことは書いてありません。本当は美しいデヴァター全体を愛でてほしいということなのかも知れません。
そのため、三たび作戦変更です。デジカメの望遠機能を利用して、本堂のデヴァターをひとつひとつ見ることにしました。
「確か、左向きの像だったよなあ」
「全身、ほとんど型崩れしていないはず」
まず、右向きのデヴァターは、かなりの美形でもパスです
( 右向きのデヴァターも美しいのですが・・・・・)
ガイドブックに掲載してあった小さな写真の記憶をたどりながら、ズームアップされたデヴァターの画像を観察しますが、くっきりと判別できません。本堂正面あたりのデヴァターは、逆光で影が出ている像もあるので絞り込みも難航しました。
左向きでも、顔や頭部が崩れていたり、彫りが深くないデヴァターもパスです。アンコール・ワット中のデヴァターランキングではトップクラスでしょうが、『東洋のモナリザ』ではありません。
( 顔周りが少し崩れている左向きデヴァター )
やっと、これかなと思えるデヴァターがズームアップした視界に入りました。左向きで保存状態も良く、表情にも品が漂っていました。
「なーるほど、確かに他のデヴァターよりは美しいかも」と、そのときは感じました。
ところが、これが大間違い。あとで買った絵はがきなどを見ながら、じっくり観察してみると、似て非なるデヴァターだったのでした。
「あああ・・・・・・・・・・。アンコール・ワット観光、最大のミス」
悔やんでも、悔やみきれません。
「左向きのデヴァターを、もっとじっくりアップすれば良かった」
「もう少し忍耐強く、プロのガイドを待ったり、写真オタクみたいな観光客が来るまで辛抱すれば良かった」
後悔先に立たずの典型でした。見落としをフォローするべく、アンコールワット遺跡を再訪する確率は、今のところかなり低いです。
( 左向きで保存状態も良い美形のデヴァター )
皆さんの旅行記やブログを拝読していると、けっこう『モナリザ』違いがあります。『モナリザ』と評判のデヴァターは、特定の一体ではなくバンテアイ・スレイのデヴァター全部を指しているという勘違いも散見します。
本物の『東洋のモナリザ』像のポイントは、微笑みが一番愛くるしいことに加えて、頭部が1枚の石で彫ってあり、つぎはぎでないこと、正面右の頭髪部に菊のような模様の簪(かんざし)が付いていることです。ですから、良く知っている人に教えてもらうか、かなりズームアップしないと判別できません。
もちろん、東洋のモナリザを見落としたところで、今日明日の人生はこれっぽっちも変わらないでしょう。
「でもね、最高峰のものを見て、さらに研ぎ澄まされるセンスを身に付けないと、人生がほんのちょっぴり安っぽくなるんです」
2020年3月記 了
バンテアイ・スレイ寺院遺跡:Banteay Srei Temple は、「東洋のモナリザ」の異名を取る美しいデヴァター像のレリーフがとっても有名です。彫りが深く、色合いが美しいのです。
( デヴァターが彫ってある3つの塔 )
バンテアイ・スレイのデヴァター像は、近くまで寄って見ることができません。かなり遠目に、眼を凝らして睨むような距離感です。
「観光写真と全然、違うやんけ!」
「本物を自身の眼で見たという自己満足感以外、何もないじゃん」
悪く言えば、このような印象です。どうやら遺跡保護、盗難防止のために、ここ20年ほどは見物客をレリーフ近くの回廊まで入れない方針とのこと。1923年末に、後のフランス人作家のアンドレ・マルローがデヴァター像を盗み出そうとした事件が、大きなトラウマになっているようです。帝国主義の風潮が未だに消えやらぬ時代でしたから、エジプトやメソポタミアから古代彫刻などを平然と持ち出していた頃の奢った気分があったことは想像に難くありません。
「遺跡泥棒を捕まえたカンボジア当局は、ラッキーな面もあったとはいえ偉い!」
こんなことを頭の中で思い出しながら、本堂の周りを歩いても、東洋のモナリザらしきデヴァターは目に入りません。あまりに遠すぎて、私の視力では判別がつかなかったのです。
ちなみに、『東洋のモナリザ』と称されているデヴァターは、以下のサイトなどで見られます。
https://mapio.net/pic/p-10649029/
( 肉眼ではデヴァターは遠くに小さく見えるだけ )
「どれが、『東洋のモナリザ』か、全然、ヒントもないぞ」
頭を抱えるしかありません。くだんのデヴァターの近くに行けば、壁の隅に小さな解説板が貼ってあり、どれが『東洋のモナリザ』か図示くらいしてあるだろうという期待がものの見事に外れました。
( ルーブル美術館のモナリザ案内表示 )
ちなみに、元祖『モナリザ』の方は、実物があるルーブル美術館の展示室の近くに、写真付きで『モナリザはあっち』という矢印案内がぺたぺた貼ってあります。『東洋』の方も、図示くらいはあるだろうという想定は、きわめて甘い発想でした。「途上国の観光案内の適当さを舐めんじゃねえよ」という声がびんびんと脳裏に響きました。
そこで他力本願。三々五々やってくるガイド付きのグループ客のそばに、それとなく寄って歩き、デヴァター像の解説を盗み聞きしようとしました。
しかし、これも失敗。4~5人のガイドさんは、全員、特定のデヴァターを指さすことなく本堂周辺の解説をしておしまい。客の方も、ふんふんと聞いて写真を撮るだけで、本堂から出て行ってしまいました。
『お前ら、デヴァター最高級の美女を見る気あんのか。何しにバンテアイ・スレイに来たんか!』と、内心、怒り心頭ですが、現実は「東洋のモナリザ」という下馬評ほどの注目度はないようです。「東洋のモナリザ」と、騒いでいるのは日本人ばかりのようです。現地のシェム・リアップ市の観光案内や、英語の総合案内ブログには、モナリザのことは書いてありません。本当は美しいデヴァター全体を愛でてほしいということなのかも知れません。
そのため、三たび作戦変更です。デジカメの望遠機能を利用して、本堂のデヴァターをひとつひとつ見ることにしました。
「確か、左向きの像だったよなあ」
「全身、ほとんど型崩れしていないはず」
まず、右向きのデヴァターは、かなりの美形でもパスです
( 右向きのデヴァターも美しいのですが・・・・・)
ガイドブックに掲載してあった小さな写真の記憶をたどりながら、ズームアップされたデヴァターの画像を観察しますが、くっきりと判別できません。本堂正面あたりのデヴァターは、逆光で影が出ている像もあるので絞り込みも難航しました。
左向きでも、顔や頭部が崩れていたり、彫りが深くないデヴァターもパスです。アンコール・ワット中のデヴァターランキングではトップクラスでしょうが、『東洋のモナリザ』ではありません。
( 顔周りが少し崩れている左向きデヴァター )
やっと、これかなと思えるデヴァターがズームアップした視界に入りました。左向きで保存状態も良く、表情にも品が漂っていました。
「なーるほど、確かに他のデヴァターよりは美しいかも」と、そのときは感じました。
ところが、これが大間違い。あとで買った絵はがきなどを見ながら、じっくり観察してみると、似て非なるデヴァターだったのでした。
「あああ・・・・・・・・・・。アンコール・ワット観光、最大のミス」
悔やんでも、悔やみきれません。
「左向きのデヴァターを、もっとじっくりアップすれば良かった」
「もう少し忍耐強く、プロのガイドを待ったり、写真オタクみたいな観光客が来るまで辛抱すれば良かった」
後悔先に立たずの典型でした。見落としをフォローするべく、アンコールワット遺跡を再訪する確率は、今のところかなり低いです。
( 左向きで保存状態も良い美形のデヴァター )
皆さんの旅行記やブログを拝読していると、けっこう『モナリザ』違いがあります。『モナリザ』と評判のデヴァターは、特定の一体ではなくバンテアイ・スレイのデヴァター全部を指しているという勘違いも散見します。
本物の『東洋のモナリザ』像のポイントは、微笑みが一番愛くるしいことに加えて、頭部が1枚の石で彫ってあり、つぎはぎでないこと、正面右の頭髪部に菊のような模様の簪(かんざし)が付いていることです。ですから、良く知っている人に教えてもらうか、かなりズームアップしないと判別できません。
もちろん、東洋のモナリザを見落としたところで、今日明日の人生はこれっぽっちも変わらないでしょう。
「でもね、最高峰のものを見て、さらに研ぎ澄まされるセンスを身に付けないと、人生がほんのちょっぴり安っぽくなるんです」
2020年3月記 了