リッチで繊細なドノスティア 2017年9月
1) はるか彼方のサンセバスチャン
バスク旅行をする日本人観光客の人気ナンバーワンは、おそらくドノスティア: Donostia でしょう。スペイン語で、サンセバスチャン: San Sebastian と呼ぶ高級リゾート都市です。バスク地方の主要都市のなかでは、もっともウスケラ ( Euskera / Euskara / バスク語)が、聞こえる場所だという評判です。
( ドノスティアが、言語にかかわらず正式名称。サンセバスチャンは、当局の表示には書いていないことが多い。 左や上がウスケラ、右や下がカステヤーノ=スペイン語 )
ビルバオ派の私にとっては、少し残念ですが、多くの日本人が、バスク旅行の結果、ドノスティアに惹かれるのも納得します。何しろ、もともと高級リゾート都市として発展してきた街ですから、観光客に好かれて当然です。
「人気のドノスティア、経済力のビルバオ」、でしょう。
( Donostia中心部遠望。手前旧市街、ビル街が新市街 Sep.2017 )
私のドノスティア感を一言で表すと、”フランス風”です。
バスク一帯は、もともと独特の雰囲気を持っています。その中でも、ビルバオとドノスティアの雰囲気は違います。普通の観光客でも、半日居れば分かるくらい違います。私の頭の中で、ドノスティアをイメージするキーワードは、リゾート、ハイセンス、ビーチ、物価高、フランス領事館などです。
( コンチャ海水浴場とイゲルドの丘。Donostia / サンセバスチャン )
私のドノスティア事始めは、ここのフランス領事館に入国ビザを取りに行った1986年9月です。
当時、フランス国内で頻発したテロ対策のため、フランス政府は突如、EU以外の国籍の旅行者にビザ取得を義務付ました。翌朝、それを知らずにビルバオ発の直通バスでフランスに行こうとしていた私は、国境のアンダイで検問に引っ掛かり、ビザ取りのためにサンセバスチャンに引き返しました。街並み観光をするどころではありません。それでも、「高級マンションが整然と立ち並ぶ上品な場所だなあ」と、マリア・クリスティーナ橋付近の景色を見ながら感じたことを、今でも記憶しています。ビルバオと違い、30年以上経っても、街のみやびな雰囲気は同じです。
ビザ発給の待ち時間に近所のバルに入りましたが、ピンチョスブームの気配もない時世でした。
スペイン語名サンセバスチャンのことをウスケラ:Euskera/Euskara、つまりバスク語でドノスティアと呼ぶことを知っている日本人など、当時は皆無。今でも多くはありません。その後の約20年間で、初めてドノスティアという呼称を知っている方にお会いしましたが、聞けば、親御さんのご縁でドノスティアに泊まったことがある方でした。
鼻持ちならない閑話休題ですが、さすがに、そのお方もバスク語の現地呼称がウスケラとか、(エ)ウスカラというのは、記憶にないようでした。21世紀初頭の、日本人観光客のバスク意識の一端を垣間見るようです。
( 市内案内表記。ウスケラとカステヤーノ。Donostia Sep.2017 )
ですから、昨今のバスク人気上昇を知るにつれ、良かったねという気持ちになるのです。
2) 風雅で繊細なドノスティア
2017年のドノスティア、スペイン語名サンセバスチャンは、きらきら輝く精巧なガラス細工のような都市でした。街中の雰囲気は、フランスのバスク地方と共通する部分がたくさんありました。ひょうひょうとして、取り澄ましているけれども親切、という雰囲気です。
( モンテ・ウルグルの頂上から望むコンチャ海水浴場 )
都市の歴史や、コンチャ海水浴場に代表される観光名所の詳細は、多くの方々が語るとおりです。三ツ星レストランやピンチョスバルのレベルの高さで食通をうならせる美食都市ぶりも、万人の褒めているとおりだと思います。
未体験者にとって、サンセバスチャンやビルバオは、想像を絶する整然とした高級感を持つ”スペイン”です。「ちょっと”地方都市”めぐりをするか」という、上から目線感覚が、木っ端みじんに打ち砕かれると言っても過言ではありません。ですから、旅行記では、単調な紹介文を書くだけで、気持ちがいっぱいです。
私は、そういう輝きの奥に、バスク州ならではの複雑な思いが、街路の標識や、お店の看板に込められているような気がしています。
サンセバスチャンというブランドで、街のイメージと経済のいくばくかを支える誇り高きドノスティアが、いつまでも人々の記憶に残ることを祈ってやみません。
3) リッチなドノスティアを歩いて
9月のドノスティアは、頬に当たる空気もだいぶ涼しくなってきていました。青々としたコンチャ湾:Bahi*a Concha / Kontxa baieの色も、高度を下げた太陽の光のせいか、真夏にくらべると、少しばかり黒い濃さを増しています。浜辺で日光浴をしたり、海の中に入っていく人は、めっきりと減り、みんな海岸沿いの遊歩道を行ったり来たりするようになっています。
( 海水浴客もほとんどいなくなった初秋のコンチャ海水浴場 )
( カンタブリアの海の色は、濃さを増しつつ )
多くの方々のドノスティアに対するイメージは、ほぼ新市街地の印象です。
テラスが出窓になったバスク風高級マンション街の雰囲気に、私たちは、一目ぼれのような衝撃を受けます。高さやデザインがほぼ揃った、均整の取れた美しい市街地が延々と続きます。歩道の敷石の欠けとか、修理途中で放置されているような建物も、まず、見当たりません。全然、荒れた感じがしないことも、好印象の理由です。
「こりゃ、すごい高級なところへ来たな」
と、ほとんどの人が感じます。
( ドノスティア (サンセバスチャン) の大聖堂と、付近の高級マンション )
( 新市街の中心部は、整然とした高級マンション街 )
物価も相当高く、お隣のフランスより少し安いくらいでしかありません。
「どうりで、ホテルが高いと思った」
そのとおりです。9月になったというのに、1泊100ユーロくらい出しても、清潔で便利ですが手狭な部屋しか取れません。
欄干や両岸の彫刻が目を見張るばかりのマリア・クリスティーナ橋や、同名のホテルを眺めるにつけ、
「ここは、金がかかる街だ」、ということに、あらためて納得します。
( 美術品のようなマリア・クリスティーナ橋。RENFEの駅の近く )
( 川沿いのホテル・マリア・クリスティーナと背後のウルグルの丘 )
( ドノスティア市庁舎。旧市街と新市街の境目付近のビーチ寄りにある )
( 安心度100%。観光ムード満点の旧市街の通り。ドノスティア )
大半の観光客は、1泊2日だろうが、1週間滞在型であろうが、ピンチョスバルめぐりを楽しみます。
私も体験者として思います。
「バルは楽しむものです。スマホにランキングデータを入れておいて、食べた、行った、とチェックしながら回る場所ではありません」
「そうは言っても、ダンナあ。一生に一回、来れるか来れないかなんだからさあ。名物ピンチョスが30ユーロでもいいんだよ」
それも、ひとつの見識として承りました。
「でも、バルが楽しかったんではないですよね。バルに行ったこと自体が、楽しかったんですよね」
「細かいことに、いちいち、うるさいなあ!」
( ランチタイム前の旧市街のピンチョスバル街 )
( 大にぎわいの、夜のピンチョスバル街 )
私も、ドノスティアでは、典型的な1泊観光客です。観光案内を見ながら、市内めぐりとピンチョスバル体験をしました。とても、すがすがしい午後の時間と、後悔も含めて、エキサイティングな週末ピンチョスバル体験をすることができ、大変、満足しています。
「一期一会のオーストラリア人のお姉さん、ありがとうございました」、です。
わずかな体験から感じたことは、ドノスティアは、サンセバスチャンという食通ブランドを世界にアピールしながら成長している観光都市だということです。自然環境良し、治安良し、都市づくり良し、食べ物良しの魅力的な街です。何人もの日本人や外国人が、お母さんの胸に抱かれるような、安らかで清らかな気分に惹かれて、ここに移ってきた理由が、よく分かります。
お仕事に恵まれて、この地で憂いなく眠れますよう、祈念してやみません。
了
1) はるか彼方のサンセバスチャン
バスク旅行をする日本人観光客の人気ナンバーワンは、おそらくドノスティア: Donostia でしょう。スペイン語で、サンセバスチャン: San Sebastian と呼ぶ高級リゾート都市です。バスク地方の主要都市のなかでは、もっともウスケラ ( Euskera / Euskara / バスク語)が、聞こえる場所だという評判です。
( ドノスティアが、言語にかかわらず正式名称。サンセバスチャンは、当局の表示には書いていないことが多い。 左や上がウスケラ、右や下がカステヤーノ=スペイン語 )
ビルバオ派の私にとっては、少し残念ですが、多くの日本人が、バスク旅行の結果、ドノスティアに惹かれるのも納得します。何しろ、もともと高級リゾート都市として発展してきた街ですから、観光客に好かれて当然です。
「人気のドノスティア、経済力のビルバオ」、でしょう。
( Donostia中心部遠望。手前旧市街、ビル街が新市街 Sep.2017 )
私のドノスティア感を一言で表すと、”フランス風”です。
バスク一帯は、もともと独特の雰囲気を持っています。その中でも、ビルバオとドノスティアの雰囲気は違います。普通の観光客でも、半日居れば分かるくらい違います。私の頭の中で、ドノスティアをイメージするキーワードは、リゾート、ハイセンス、ビーチ、物価高、フランス領事館などです。
( コンチャ海水浴場とイゲルドの丘。Donostia / サンセバスチャン )
私のドノスティア事始めは、ここのフランス領事館に入国ビザを取りに行った1986年9月です。
当時、フランス国内で頻発したテロ対策のため、フランス政府は突如、EU以外の国籍の旅行者にビザ取得を義務付ました。翌朝、それを知らずにビルバオ発の直通バスでフランスに行こうとしていた私は、国境のアンダイで検問に引っ掛かり、ビザ取りのためにサンセバスチャンに引き返しました。街並み観光をするどころではありません。それでも、「高級マンションが整然と立ち並ぶ上品な場所だなあ」と、マリア・クリスティーナ橋付近の景色を見ながら感じたことを、今でも記憶しています。ビルバオと違い、30年以上経っても、街のみやびな雰囲気は同じです。
ビザ発給の待ち時間に近所のバルに入りましたが、ピンチョスブームの気配もない時世でした。
スペイン語名サンセバスチャンのことをウスケラ:Euskera/Euskara、つまりバスク語でドノスティアと呼ぶことを知っている日本人など、当時は皆無。今でも多くはありません。その後の約20年間で、初めてドノスティアという呼称を知っている方にお会いしましたが、聞けば、親御さんのご縁でドノスティアに泊まったことがある方でした。
鼻持ちならない閑話休題ですが、さすがに、そのお方もバスク語の現地呼称がウスケラとか、(エ)ウスカラというのは、記憶にないようでした。21世紀初頭の、日本人観光客のバスク意識の一端を垣間見るようです。
( 市内案内表記。ウスケラとカステヤーノ。Donostia Sep.2017 )
ですから、昨今のバスク人気上昇を知るにつれ、良かったねという気持ちになるのです。
2) 風雅で繊細なドノスティア
2017年のドノスティア、スペイン語名サンセバスチャンは、きらきら輝く精巧なガラス細工のような都市でした。街中の雰囲気は、フランスのバスク地方と共通する部分がたくさんありました。ひょうひょうとして、取り澄ましているけれども親切、という雰囲気です。
( モンテ・ウルグルの頂上から望むコンチャ海水浴場 )
都市の歴史や、コンチャ海水浴場に代表される観光名所の詳細は、多くの方々が語るとおりです。三ツ星レストランやピンチョスバルのレベルの高さで食通をうならせる美食都市ぶりも、万人の褒めているとおりだと思います。
未体験者にとって、サンセバスチャンやビルバオは、想像を絶する整然とした高級感を持つ”スペイン”です。「ちょっと”地方都市”めぐりをするか」という、上から目線感覚が、木っ端みじんに打ち砕かれると言っても過言ではありません。ですから、旅行記では、単調な紹介文を書くだけで、気持ちがいっぱいです。
私は、そういう輝きの奥に、バスク州ならではの複雑な思いが、街路の標識や、お店の看板に込められているような気がしています。
サンセバスチャンというブランドで、街のイメージと経済のいくばくかを支える誇り高きドノスティアが、いつまでも人々の記憶に残ることを祈ってやみません。
3) リッチなドノスティアを歩いて
9月のドノスティアは、頬に当たる空気もだいぶ涼しくなってきていました。青々としたコンチャ湾:Bahi*a Concha / Kontxa baieの色も、高度を下げた太陽の光のせいか、真夏にくらべると、少しばかり黒い濃さを増しています。浜辺で日光浴をしたり、海の中に入っていく人は、めっきりと減り、みんな海岸沿いの遊歩道を行ったり来たりするようになっています。
( 海水浴客もほとんどいなくなった初秋のコンチャ海水浴場 )
( カンタブリアの海の色は、濃さを増しつつ )
多くの方々のドノスティアに対するイメージは、ほぼ新市街地の印象です。
テラスが出窓になったバスク風高級マンション街の雰囲気に、私たちは、一目ぼれのような衝撃を受けます。高さやデザインがほぼ揃った、均整の取れた美しい市街地が延々と続きます。歩道の敷石の欠けとか、修理途中で放置されているような建物も、まず、見当たりません。全然、荒れた感じがしないことも、好印象の理由です。
「こりゃ、すごい高級なところへ来たな」
と、ほとんどの人が感じます。
( ドノスティア (サンセバスチャン) の大聖堂と、付近の高級マンション )
( 新市街の中心部は、整然とした高級マンション街 )
物価も相当高く、お隣のフランスより少し安いくらいでしかありません。
「どうりで、ホテルが高いと思った」
そのとおりです。9月になったというのに、1泊100ユーロくらい出しても、清潔で便利ですが手狭な部屋しか取れません。
欄干や両岸の彫刻が目を見張るばかりのマリア・クリスティーナ橋や、同名のホテルを眺めるにつけ、
「ここは、金がかかる街だ」、ということに、あらためて納得します。
( 美術品のようなマリア・クリスティーナ橋。RENFEの駅の近く )
( 川沿いのホテル・マリア・クリスティーナと背後のウルグルの丘 )
( ドノスティア市庁舎。旧市街と新市街の境目付近のビーチ寄りにある )
( 安心度100%。観光ムード満点の旧市街の通り。ドノスティア )
大半の観光客は、1泊2日だろうが、1週間滞在型であろうが、ピンチョスバルめぐりを楽しみます。
私も体験者として思います。
「バルは楽しむものです。スマホにランキングデータを入れておいて、食べた、行った、とチェックしながら回る場所ではありません」
「そうは言っても、ダンナあ。一生に一回、来れるか来れないかなんだからさあ。名物ピンチョスが30ユーロでもいいんだよ」
それも、ひとつの見識として承りました。
「でも、バルが楽しかったんではないですよね。バルに行ったこと自体が、楽しかったんですよね」
「細かいことに、いちいち、うるさいなあ!」
( ランチタイム前の旧市街のピンチョスバル街 )
( 大にぎわいの、夜のピンチョスバル街 )
私も、ドノスティアでは、典型的な1泊観光客です。観光案内を見ながら、市内めぐりとピンチョスバル体験をしました。とても、すがすがしい午後の時間と、後悔も含めて、エキサイティングな週末ピンチョスバル体験をすることができ、大変、満足しています。
「一期一会のオーストラリア人のお姉さん、ありがとうございました」、です。
わずかな体験から感じたことは、ドノスティアは、サンセバスチャンという食通ブランドを世界にアピールしながら成長している観光都市だということです。自然環境良し、治安良し、都市づくり良し、食べ物良しの魅力的な街です。何人もの日本人や外国人が、お母さんの胸に抱かれるような、安らかで清らかな気分に惹かれて、ここに移ってきた理由が、よく分かります。
お仕事に恵まれて、この地で憂いなく眠れますよう、祈念してやみません。
了