1) ビルバオ・メトロという作品
ビルバオのメトロは、地下鉄です。
1995年11月に最初の区間が開通しました。グッゲンハイム美術館ビルバオ分館開館に先立つこと2年前です。
( ビルバオ・メトロの電車。地下区間へ入るところ )
この電車は、日常の乗り物ですが、ビルバオのイベントのひとつみたいです。人々の目をひくため、デザインも相当考え抜いたのではないかと感じました。設計責任者は、イギリス人建築家ノーマン・フォスター: Norman Foster という人物です。
観光客は、おじけづいていないで、是非メトロに乗ってみたいものです。最低運賃1ユーロくらいの観光名所に入ったと思うと、気分もウキウキします。メトロの駅も車内も、とても安全、清潔です。落書きや物乞い、小銭ドロボーは、バスク人の誇りにかけて、見かけません。日本と同じくらい治安の良いバスクは、世界中の宝と言っても良いでしょう。
私の感じるところ、メトロは、確実にトップ5以内の観光スポットです。
「残りの4つは、何ですか?」
「グッゲンハイム美術館、ビスカヤ橋、ユニークデザイン建築群、グルメですかね」
「うーーん、そんなもんでしょうね。あなたにしては、まっとうな答えなので、拍子抜けしました」
「納得したら、さっそく、メトロに乗りましょう」
乗車前に、ビルバオ・メトロの作品概要を整理しておきます。2017年9月現在の姿です。
*名称 メトロ・ビルバオ:Metro Bilbao
*路線数 3系統。 1,2号線は都心部では合流して運転。3号線は独立した路線。
*シンボルカラー 1,2号線はオレンジ色。3号線は青。
*開業 1995年11月。逐次延伸中。全線複線電化。
*軌間(線路の幅) 1000ミリ ( 日本のJRは1067ミリ )
*通行区分 全線で左側通行。 ( スペインのクルマは右側通行 )
*立体交差 全線立体交差。地下区間または高架区間。
*駅の構造 例外を除き、全駅、上下線別対面式プラットホーム構造で自動改札機設置。ホームドアはなし。
*バリアフリー 各駅にエレベーターあり。
*車両 1,2号線はメトロビルバオ独自の電車。4両または5両編成。
3号線は、ウスコトレン社が運営のため、同社900系電車4両編成で運転。
*運転本数 朝6時前より夜11時過ぎまで運転。都心部では5分から10分ごとの運転。
*相互乗入れ 2017年4月11日開業の3号線のみ、ウスコトレン線と相互乗り入れ中。
最長はビルバオ・マティコ駅発ドノスティア・アマラ行き普通電車。
*ダイヤ構成 平日、土曜休日、週末終夜の3本建て。
*終夜運転 金曜夜は終電を2時ごろまで繰下げ、土曜日深夜は終夜運転。
*運賃 ゾーン別運賃。3段階あり、0.90ユーロから1.18ユーロ。
バリクカード(旧名クレディトラン):barikcard という名称のICカード導入済。
カード利用時は割引運賃適用。50回または70回利用割引運賃、シニア割引、年間ベースの学生割引等がある。
*その他 3号線は、ビルバオのロイウ空港まで延伸工事中。開通年未定。
2) メトロの駅で、わくわく、どきどき
ビルバオ・メトロと言えば、ガラスのドームの出入口がシンボルです。とても洗練されたなデザインで、一度、見たら目に焼き付きます。私はガラスいも虫のように感じました。
電車に乗ることをためらっている方でも、メトロの出入口のコメントは忘れません。ビルバオを代表するオブジェを見落とすような観光客は、ほぼ皆無です。
( モユア広場のメトロ出入口。ガラスいも虫が二カ所あります )
ガラスいも虫は、ビルバオの中心部では、それなりに見かけます。観光客が多いモユア広場には二つあって、思わず、「わあー」と、興奮してしまいます。
「見とれていないで中へ入りましょう」
「はあい」
下の写真は、モユア駅の西隣り、インダウチュ駅の西側出口です。木立がすがすがしい歩道の途中に、にょっきり顔を出しています。
( インダウチュ駅西口のメトロ出入口 )
ガラスで覆われた地下への出入口そのものは、東京にもいくつかあります。舎人ライナー日暮里駅そばの駐輪場への出入口、メトロ東西線の竹橋駅の出入口などです。けれども、ビルバオのものは、デザインが洗練され、しかも機能美を追求した現代風のシンプルさを感じる分、東京の類似品より、一枚も二枚も上をゆく構造物だと感じます。みなさまの感想は、いかがでしょうか。
東京も、2020年オリンピックがチャンス。是非、すてきなデザイン、記憶に残る機能美を追求してほしいです。
(上は日暮里駅駐輪場、下は竹橋駅のガラスドーム )
ガラスいも虫の内部から地上を見上げると、じゃばら風です。外から見たほどユニークな雰囲気ではありません。
メトロの駅は、全部が全部、このタイプの出入口ではありません。大半がエスカレーター用の出入口ですが、ときどき階段のこともあります。どういう理由で、ガラスいも虫式か、その他式か、を選んでいるのか、確かめていなくて、すみません。
( ガラスいも虫内部 )
例えば、BBVAタワーがそびえるアバンド駅:Abando のメインはガラスいも虫式ですが、脇の方の出入口は、何の変哲もないスタイルです。
( アバンド駅のBBVAタワー前のメトロ出入口 )
( 同じアバンド駅でも、ガラスいも虫式でない出入口 )
ずんずん駅の中へ入ります。
モユア駅の通路には、ノーマン・フォスター氏のサインをかたどったレリーフがあります。ふうーん、と見たまではよかったのですが、写真を撮り忘れました。
メトロ1,2号線の地下方式の各駅の構内は、色合いや寸法がほぼ同じデザインです。駅名標を取り替えれば、どれがどの駅だが分からなくなるくらい、そっくりです。乗降客の多い駅と、少ない駅で、大小の差があってもいいような気がしますが、そんなことはありません。下のモユア駅のように、人通りが多いか、あるいは郊外の駅のように、がらんとしているかだけの差です。
( メトロ1,2号線は、全駅ほぼ統一デザイン。改札手前のきっぷ自動販売機 )
改札口につながる通路には、かならず切符の自動販売機があります。切符だけでなく、バリクカードの販売やチャージもできます。ウスケラ、スペイン語に加えて英語案内もあります。故障もめったにありません。つり銭もきちんと出ます。
( メトロのきっぷ自動販売機。英語案内もあります )
私もバリクカード:barikcard を購入して、電車乗り場へ向かいます。
旧名はctb = Credit Tran Bilbao らしいのですが、2017年現在、当局は ”barik card ” 一本で押してきていました。
( バリクカード表面 )
モユア駅のメトロの改札口です。ヨーロッパの標準的な装置です。
どこの駅も必ず改札口が二カ所あります。けれども、二つの改札口は、構内でつながっていません。反対側の出入口に降りてしまったときは、地上で遠回りをしてホテルや観光スポットに向かうしかありません。
( メトロの改札口。全駅統一デザイン )
改札をとおり、プラットホームへ降りてきました。
銀色と灰色の壁、通路、手すりで統一された構内は、やや前衛的な雰囲気です。SF映画の宇宙船の通路のような雰囲気です。広告類は、いまのところ一切ありません。
( メトロのホーム。大きな断面のトンネルで、広々感を出している )
バリアフリー対策も完璧で、全駅にエレベーターが設置され、専用の自動改札を通って電車に乗り降りできます。
21世紀を見据えたプロジェクトなのに、ホームドアがないのが、やや不思議でした。そこまで混雑しないと見たのか、うっかり設計忘れか、真相は調べていません。勉強不足をおわび申し上げます。
( バリア・フリー用のメトロのホーム・エレベーター。改札も独立仕様 )
当然、駅名標も統一デザイン。
カラーリングは、1,2号線がオレンジ色、3号線が青色です。
( メトロの駅名標と各種案内。1,2号線はオレンジ、3号線は青がシンボルカラー )
3) いろいろな電車体験
メトロでも、案内放送や、電車接近のチャイム類はいっさいありません。ホーム上には、次の電車が何分後に到着するかを知らせる電光掲示板が下がっています。また、電車が入ってくる直前になると、ホーム上の照明が、パアッと、一ランク明るくなって、乗客に注意を促しています。
「あぶないですよ!!黄色い線の内側を歩いてくださあーーい」と、マイクでがなり立てるようなことはありません。ビルバオ・メトロがデフォだと思っているバスク人が、東京のメトロに乗ると、人の多さにびっくり、次に、注意放送の騒々しさに、「四六時中怒られているみたい」、という感想をもらすかも知れません。
ビルバオ市民は、あまりおしゃべりせずにメトロに乗っていますので、駅の中も大変静かです。
こういうところが、多くの日本人旅行者のみなさんが、「バスクは、スペインじゃないみたい」と感じる原体験のひとつです。私も、そのとおりだと思います。
( ホームに入ってきたメトロ1,2号線の電車。左側通行です )
1,2号線の電車の車内です。シンプルで機能的なデザインです。開業以来20年以上経っているのに、メンテがしっかりしているせいか、あまり古さを感じません。
( メトロ1,2号線電車の車内 )
メトロの路線は、都心部から離れると地上に顔を出し、高架区間が多くなります。高架の駅も、それなりに軽快なモダンデザインです。
( メトロ地上区間の駅と電車。ブエルタ駅にて )
平日の朝、郊外から都心へ向かう通勤時間帯の電車に乗ってみました。
9月の日の出は午前8時ごろです。曇り空が、ようやく明るくなってきたエチェバリ駅:Etxebarri 都心方向のホームは、途切れない程度に通勤客が電車を待っています。各乗車口に数人ずつ並ぶほどでもありません。電車は、4,5分間隔で発車しますが、見ていると、全員座れます。モユアまで約10分です。
感覚的ですが、朝の通勤電車より、ランチタイム時や夕方帰宅時の電車の方が、混んでいるような気もします。みな、一目散で食事をとりに家に帰ったり、待ち合わせ場所に向かうので、人が集中しやすいのです。
( 郊外のエチェバリ駅の朝8時ごろの上りホーム風景 )
4) メトロ3号線登場
2017年4月11日にメトロ3号線が開業しました。
ウスコトレン社の経営なので、全体の雰囲気は、ウスコトレンの地下区間みたいな感じです。在来線と相互乗り入れも始まりました。1,2号線とは、東京メトロと都営地下鉄のような関係ですが、サービスは縦割りではありません。
3号線もビルバオのメトロの一部なので、運賃体系は共通、駅の造りや案内方法も1,2号線と極力似せてあります。当たり前と言えば、当たり前のことをやっているまでです。
キーとなる駅は、サスピカレアク / カスコビエホ駅: Zazpikaleak / Casco Viejo です。1,2号線との乗換駅であり、ビルバオの都心部に一番近い駅です。昔風のビルの間に割り込むようにしてガラス張の明るいイメージの駅舎を造りました。
( 新装なったサスピ・カレアク / カスコ・ビエホ 駅出入口。 赤1,2号線、青3号線の表示 )
メインの出入口は、ガラスいも虫デザインではありません。中に入ると、左右すぐのところに3号線改札、中央のエスカレーター下に1,2号線改札があります。両系統を乗り継ぐときは、いちど、改札を出たり入ったりしますが、運賃は通算されます。
( 1,2号線と3号線の乗換場所。系統別の改札で、エスカレーター下が1,2号線改札 )
( サスピカレアク / カスコビエホ 駅の系統別出口、通路案内 )
3号線は、開通直後なので、駅も電車もピッカピカ。ホームに蛍光灯の光がきれいに反射しています。まだ、乗客は多くないので、電車はかなりすいています。
( 3号線の青い駅名標、案内表示。サスピ・カレアク / カスコ・ビエホ駅 )
( ククヤーガ・エチェバリ駅に停車中の3号線始発電車と、左アチューリ行き在来線 )
3号線の東の終点が、ククヤーガ・エチェバリ駅: Kukullaga Etxebarri 。相互乗り入れの接続駅です。古い駅を、全面的に改修したので、新駅とみまごうばかりのピカピカ度でした。
ビルバオ・メトロをだいぶ楽しんだので、最後に夜景をみてみましょう。
朝の暗いうちや夜間に、ガラスいも虫の駅に行くと、明かりが曲面ガラスに反射して、華やかな雰囲気です。雨に濡れた歩道にも光が当たり、いつもより多くの光の点が映っていました。
( 闇に煌々と輝くビルバオ・メトロのガラス・ドーム出入口 )
なかなか幻想的な雰囲気が出ていました。
2017/9観光、2018/2記 了