モンサンミシェルの大企業ラ・メール・プーラール社のようす    2019年4月訪問


1. モンサンミシェル名物

モンサンミシェルの隠れた名物は、ラ・メール・プーラール:La Mere* Poulard、の巨大オムレツです。
(* アクセント記号は省略 )
値段が高い、味がうすい、などの酷評も多いですが、知名度が高いことは、まぎれもない事実です。

有名観光地には、たいてい、名物料理や定番のお土産があります。ラ・メール・プーラールのオムレツも同類です。また、ラ・メール・プーラールのビスケットやクッキーは、定番のお土産と言ってよいでしょう。

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( ラ・メール・プーラールのビスケットやクッキー )

「フランス版『モンサンミシェルに行ってきました』みやげですね」
「でも、パリなんかのスーパーにも売っているし」
「えっ?」

ラ・メール・プーラール、あなどるべからずです。


2. ラ・メール・プーラール本店の価値

ラ・メール・プーラール本店は、島に入った途端に目に飛び込んでくるお店です。素晴らしい立地で、ほとんどすべての観光客が、店の前を通ります。

ちょっと予習済みの方は「ああ、これが、うわさのオムレツ屋、ラ・メール・プーラールね」と、すぐに気づきます。私も同じでした。

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( 島に入って最初の店がラ・メール・プーラール)

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( ラ・メール・プーラール前から島の入口を振り返る )

重厚な石造建築の1階がレストラン。少し離れた右のドアがホテルの入口です。
通りからのぞくと、銅なべをはじめとする調理道具がいっぱいにならび、歴史ある宿屋の食堂をアピールしています。

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( 「宿屋の食堂」の雰囲気のラ・メール・プーラール本店 )

店の左には、法令にのっとりメニューが出してあります。ブログや口コミなどで、「オムレツの値段が、ばか高い」、「値決め方法が分かりにくい」、と酷評されていますが、2019年4月時点では、少なくとも、お品書きは騙し討ちのような書き方ではありませんでした。

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( ラ・メール・プーラールのオムレツ単品メニュー )

ただし、オムレツ単品の値段がとても高いことは否めません。トッピングによりけりですが、1皿38ユーロから44ユーロです。ワインや水を注文し、デザートを加えたりすると、1人前55ユーロ前後になりそうです。
「なにぃ?1人前7000円のオムレツかよ!」、という怨嗟(えんさ)の声が聞こえてきそうな値段です。

ここは、店内でオムレツ料理の実演が目玉です。その見物料が、お一人さま25ユーロくらいだと思えば、オムレツの値段は近隣の他店並みの20ユーロ内外に落ち着きます。
「オムレツ調理ショー付き、オムレツ・ランチ、金50ユーロ也」、と考えれば、少し前向きな気持ちでラ・メール・プーラール本店の敷居を跨げるのではないでしょうか。

それでも私たちは高いと思ったので、結局、入店しませんでした。
「さんざん書き散らかしておいて、結局、素通りかよー」
「はい、そうです」

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( ラ・メール・プーラールの定食(ムニュ) のメニュー )

オムレツ以外の普通の定食も、松竹梅の3種類があり、お値段は、55ユーロから90ユーロくらいでした。定食の1品にオムレツが組み込まれたコースもあります。

オムレツ以外の価格は、人気観光地の高めのレストランという感じでした。次回、モンサンミシェルに来たときは、思い切って挑戦してみようと思っています。


3  大企業ラ・メール・プーラール

現在の「ラ・メール・プーラール」は、地元の大企業です。モンサンミシェル島内にホテル3軒、島外にホテル3軒を経営するほか、手広くクッキーの製造販売を手掛け、レストランやお土産屋を開き、あるいは不動産をたくさん所有してテナントに貸し出すなど、総合観光産業を営んで大いに栄えているようです。

モンサンミシェル経済の立役者、あるいは、地元のドンかのどちらかです。うがった見方をすれば、私たち観光客は、モンサンミシェル観光に来て、ラ・メール・プーラール社に貢いでいるようなものです。

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( ラ・メール・プーラールのお菓子販売店舗 )

ラ・メール・プーラールの開店は1888年です。そして、現在のオーナー様は、1986年に、ラ・メール・プーラールの商権を買い取って、現在のラ・メール・プーラール株式会社を創立しました。本店所在地はパリです。そして、1998年には、ラ・メール・プーラール名のサブレの製造販売をスタートして大成功。絵に書いたような、やり手の実業家様。プーラール家との血縁は不明です。

ブログや旅行記で、「ラ・メール・プーラールは、創業者夫妻の奥方であるアネット・プーラールさん(1851年~1931年:本名はアンヌさん )が、『遠路はるばるやってきた巡礼者』に、『安くて栄養価の高いオムレツを振舞った』のが事始めの老舗」、という趣旨の解説をされている方々がいます。私の感想では、現実のイメージとは異なります。「歴史と伝統ある美しい聖地に、こんな由緒あるお店があったらいいなあ」という、メルヘンチックな幻想をツアー・ガイドさんに語られたみたいです。

実際は、1873年、プーラール夫妻は、旦那さまの親族から現在の郵便局付近の建物を借りて食堂を開業しました。1879年に、本土と島を結ぶ道路が完成して観光客が増加。観光ブームに乗って儲かったことをねたまれて建物を借りられなくなりました。そこで1888年、それまでの貯金をはたいて現在地を購入してラ・メール・プーラールを開店しました。道路ができたとはいえ、遠路はるばるやってきた参詣客という名の観光客の気を惹こうと、ファストフード感覚で出し始めたのが、今をときめくスフレのようなオムレツ。さっぱりした食感と見た目のユニークさが評判を呼んで、いつの間にか名物料理になりました。ご夫妻も誠実な人柄で、堅実に商売に励んだので、ホテル兼レストランの名声は世界中に広まりました。

ですから、
① 1888年開店なので、モンサンミシェルの1000年以上におよぶ歴史の中では新規の店です。中世の巡礼時代やフランス革命前からのお店や料理ではありません。

②ラ・メール・プーラール開店当時は、すでに島への連絡道路は完成していました。したがって、干潟を猛スピードで押し寄せてくる大潮にさらわれて命を落としたのは、安全無視で干潟へ入っていった人だけ。押し寄せる大潮をやっとのことで振り切り、ほうほうのていで島へ上陸したような巡礼者は、基本的にいません。

②ラ・メール・プーラールのお客さまは、秘境観光好きな観光客です。ボロをまとい、ぐったりして当地へたどりついたような苦労人風の巡礼者ではありません。競合他店より「安く」する必要はあったと思いますが、貧乏旅行者をターゲットにしたので「安く」する必要はなかったと思います。

③お料理も、メインの肉料理は時間がかかるので、その代わりに手っ取り早く出せるオムレツを考案しました。競争に勝つため、他店のメニューとの差別化も必要だったでしょう。プーラール夫人は700種類ものお料理ができたと言われています。ご自身の才能をビジネスに生かすことができた幸運に恵まれたのです。

④オムレツは、秘伝のように代々、子孫に受け継がれたわけではありません。ですから、現在の経営者が、アカの他人でもレシピを守れればよいのです。

なんだか夢のないお話しですが、よく考えれば、地に足が着いた物語だと思います。


4 ラ・メール・プーラールの仲間たち

モンサンミシェルの不動産の多くを手中にしていると言われているラ・メール・プーラール社のビジネス最前線を少しばかり見ました。別館や離れを別にすれば、どの店もグランド・リュ沿いに玄関があります。

まずは、島内のホテル兼レストラン、ル・ムートン・ブラン:Le Mouton Blanc です。意味は「白羊亭(はくようてい)」といったところ。1階がレストラン、2階から上がホテルという、典型的なモンサンミシェルの旅籠(はたご)風景です。

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( ラ・メール・プーラール系列レストラン、ラ・テラス・ドゥ・ムートン・ブラン )

つづいて、レ・テラス・ドゥ・ラ・ベ:Les Terrases de la Baie。 意味は「展望レストラン湾岸亭」。

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( ラ・メール・プーラール系列のレストラン、ラ・テラス・ドゥ・ラ・ベ )

今度はホテルの観察です。
島内にあるグループホテルは、ラ・メール・プーラール、レ・テラス・プーラール、ル・ムートン・ブランの3軒です。日本人をはじめとする世界中の観光客を迎えています。どこも、清潔な室内や水回りのようで、安心ですね。歴史的建造物であるためエレベーターがないことや、部屋が手狭なこと、それなりに料金が高いため、口コミでも絶賛とはいかないようです。世界遺産の内部へ泊まれるというメリットを積極的に評価する気持ちでチャレンジしてみましょう。
ちなみに私たちは、旅費節約のため、他の島内ホテル利用でした。

まずは、旗艦店「オテル・ラ・テラス・プーラール:Ho*tel La Me*re Poulard」 (*にアクセント記号あり)
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( ラ・メール・プーラール本店とホテルを城壁から俯瞰 )

どっしりとした石造建築が創業130余年の誇りを漂わせています。
本館の裏手には、別館もあります。ホテルのサイトなどで部屋やロビーの写真が見られます。
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( ホテル、ラ・メール・プーラールの別館 )

すご腕のオーナー様が、ラ・メール・プーラールの商権入手をバネに事業をどんどん大きくしていった経過が分かるようです。大観光地といえども、リーダー不在では客足は伸びないし、その一方で、少数の大金持ちに資産が集中すると貧富の差が大きくなるし、と、メリット、デメリット半ばです。

島内の様子が分かったので、今日は、この辺でおしまいです。

2019年6月記                          了