パリに呑まれるニッポン人観光客
TGVに乗れるのは俺たちだけだ 2019年春
「ニッポン人の嫌いな日本人」が、まだまだ残っていたことに改めて気づきました。とても、寂しいことです。
【1 TGV車内でシカトするニッポン人 】
パリからモンサンミシェルへ向かうために乗ったTGV車内での出来事です。
( TGVアトランティックの2階建て車両。右のホーム上の改札機 )
私たちの予約していた座席に行くと、そこには見知らぬ4名の旅行者が座っていました。
私は、そこそこのフランス語で、
「すみません、私たちは、ここの座席のキップを持っています。皆様のキップを見せてくださいな」
と丁重に依頼し、自分のE-ticket をひらひらさせました。それなりの確率で、二重発券もありうるからです。
「・・・・・・・・」
次に、「英語話せますか?」と、言葉をかけました。
すると、何か変だぞ気づいたような、一人の初老の男性が席を立ちあがり、電光表示の座席番号を見ると、お連れに「あっちの席みたいだ」と、日本語で言って、自分はさっと席を離れました。そして、4-5列の奥の方の席番を見たあと、仲間に手招きで「こっちだ・・・・・・・」というような合図を送っています。
( TGV2等車の車内の様子。1999年ごろ。今は、もう少しカラフル )
それを見ていた残りの3人は無言で立ち上がり、私たちに一切言葉をかけず、そして、目も合わせず、膝上の小カバンを持って移動しました。その後、カバンを置いて戻ってくると、頭上の棚に置いてあった旅行カバンやコートを降ろすと、無言で立ち去りました。
その中の一人は、多少、足が悪い様子。おばさま風の同行女性が「・・・・、大丈夫?」と、小声の日本語で声をかけるのが聞こえました。
3人は、私たちなど存在しないような振りをし、反対側の窓の外などに視線を向けながら、ぞろぞろと席を移ったのです。
【2 無言で睨まれる 】
我がマダムにも「あの人たち、こっちの方を、こわそうな眼付きで睨んでいたわよ」と、あとで言われました。
マダムは、私が、最初にフランス語で、次に、英語で質問したのを聞いています。そして、「私たちが日本語でしゃべっているのを、先方の4人には聞こえていたと思う」と、言っています。マダムも、彼らが席を移動するとき、私たちに何も言わず、目線も合わさなかったことも知っていました。常々、マダムには、「あなたも決して感じは良くない」と、言われて続けていますが、そんなレベルの比ではないくらい、彼らの感じは悪かったそうです。
「私たちが、いわゆるフランス人顔だったら、小さくなって『すみません』と、言って席を移動したんだろうね」と、マダムは言っています。彼らは、そういうオーラを持っていたと感じたようです。
「ほんと、いいものを見せていただきました」
こうして、ブログ一作分のネタを提供していただいたのですから、感謝しなければいけません。
【3 つぶれたメンツ 】
我がマダムの想像した、先方ご一行様の心理です。
①リーダーの初老らしき男性は、TGV車内に入るやいなや、入口に近い場所に、予約した内容と同じ4人向かい合わせの席を見つけました。そこで、座席番号を確認せずに、”知ったかぶり”で、「ここだ、ここだあ」と、仲間に向かって自信たっぷりに、本来の私たちの座席を案内して、自分もすわりました。
( 4人向かい合わせの座席は1車両に4カ所くらいあります。ですから、車内の座席番号と自分のキップの番号を照合することが必要です。また、ファミリー向けの人気席なので、二人席と替わるのをいやがる人も多いです。 )
( TGV2等車の座席配置例。ところどころに4人向かい合わせ席がある )
②どんどん乗客が増えてきましたが、しばらく、4人席に来る人がいなかったので、リーダー格は、「どうだ、おれの予約ノウハウはうまいだろう」と、同僚に笑顔を振りまいていました。
③そこへ私たちが登場し、フランス語で座席確認を求められたので、超びっくり。そして、3秒後には、自信たっぷりに陣取った場所が、予約席ではないことに気付きました。そのうえ、相手は、どうやら日本人です。
「お、おれのメンツが、丸つぶれじゃないかあ・・・・・!」
リーダー格の方のプライドは、一瞬で地に堕ちてしましました。足の不自由な母も、『席移るの?』みたいな不満顔を自分に向けたと思い込みます。
④こういうときは、他人、特に、言葉も分かる同胞のニッポン人への責任転嫁が、最初で最終の手段です。座席表示が分かりにくいTGVサービスに文句を言うなんて、これっぽっちも思い浮かびません。
「憎いのは、いま、そこにいる観光客然としたニッポン人。フランス人の前で、俺に恥をかかせやがって!。でも、席は間違えているので、どかなければならない・・・・。」
「俺たちは、あのニッポン人のせいで『席をどかされた』、ちくしょう!」
赤っ恥と、怒り心頭で、私たちを睨みつけますが、すごすごと座席移動せざるを得ないのです。それを察知した他のお三方も、私に恨みをぶつけてシカトします。結局は、リーダーに従って行くしかありません。
【4 パリに呑まれて 】
西暦2000年ごろまでは、海外、特に欧米諸国でニッポン人を見かけると、わざと無視したり、気づかないふりをする日本人旅行者が多い感じでした。けれども、最近は様変わりして、お互いに、「こんにちは、どこから来たのですか。それでは、よい旅を」くらいに声を掛け合うようになったな、と感じていました。
どうやら、この変化は、フランス、特にパリについては当てはまらないのではないかと不安になりました。
それだけ、世界一妖艶(ようえん)なアイドル的観光都市 『パリ』 さまの強烈なオーラは、まだまだ、一部の日本人旅行者をイチコロにするようです。『パリ』 さまに対して、日本人の方からの一方的な疑似恋愛関係ができてしまうのです。
『パリ』を、『フランス』という言葉に置き換えても通用する心理です。ヨーロッパ主要国を観光する場合でも、フランスは独特の雰囲気が強めです。個人旅行のコツを少し覚えただけで、鬼の首を取ったような気持ちになりやすい国です。
「私だけのパリちゃん、他の日本人の方を向いちゃだめ!」
「パリは、私(たち)だけのために、微笑んでいるよの。あんた、目障りだから、どきなさい!」
( パリよ、あたしだけを見て! )
『酒は飲んでも呑まれるな』ですから、『パリを愛でても呑まれるな』です。
【5 リラックスして楽しいTGVの旅を 】
冒頭のような場面で、メンツとかプライドに重きを置く心理は、中国人、韓国人、ニッポン人に、よくありがちな気がします。
たかがTGVの座席チェックです。ときどき指定席の二重発券があったり、車両変更で、当該座席番号がない、という事態も起こります。
お互いに声を掛けあって助け合いましょう、何とかなるさ、旅は道連れ、の気持ちを忘れずにTGVの旅を楽しみましょう。
( TGVは数多くの乗客で大人気 )
今回、私たちの乗った車両内で、座席表示の電光表示が点灯したのは、くだんの方々に問いかける数分前です。もとはと言えば、乗客を車内に入れてから座席番号表示を点灯させるようなSNCFのサービス感覚が混乱の原因です。
それでも、去年も昨日も、何とかなっていたのです。私も、先客に尋ねながら自分たちの座席を探していました。
ですから、
「すみませんが、皆様はこちらの座席ですか?」
「あっ、いけねえ。座席表示が消えていたから、つい、ここだと勘違いして。ごめんね、いま移るから」
このくらいでいいのです。
あるいは、
「間違ったのは私たちで、本当は、3列先の4人席なんです。でも、母の足が悪くて、できるだけ動きたくないのです。ミスをしたのはこっちですが、あちらの4人席と替わっていただけないでしょうか?」
というように受け応えをしてくれたら、事はスムーズに進んだはずです。さらに、会話の途中で、お互いに日本人と分かったのですから、ダメもとで、このような複雑な提案もできたのではないでしょうか。
モンサンミシェルへ個人旅行で行けるスキルを持っていることは重要ですが、これだけでは「仏作って、魂入れず」状態。実際に、その場の状況変化に合わせたり、言うべきことはきちんと言って、満足度も高く、費用対効果も予算どおりの言動をしてこその旅行スキルだと信じて止みません。
かのリーダー格の方は、ご自身では「自信たっぷり」なのでしょうが、端から拝見すると「緊張しています」と顔に書いてありました。
「リラックスしてください。分からないことは、その場で確認してください。そして、よいご旅行を」
2019年6月 記 了
TGVに乗れるのは俺たちだけだ 2019年春
「ニッポン人の嫌いな日本人」が、まだまだ残っていたことに改めて気づきました。とても、寂しいことです。
【1 TGV車内でシカトするニッポン人 】
パリからモンサンミシェルへ向かうために乗ったTGV車内での出来事です。
( TGVアトランティックの2階建て車両。右のホーム上の改札機 )
私たちの予約していた座席に行くと、そこには見知らぬ4名の旅行者が座っていました。
私は、そこそこのフランス語で、
「すみません、私たちは、ここの座席のキップを持っています。皆様のキップを見せてくださいな」
と丁重に依頼し、自分のE-ticket をひらひらさせました。それなりの確率で、二重発券もありうるからです。
「・・・・・・・・」
次に、「英語話せますか?」と、言葉をかけました。
すると、何か変だぞ気づいたような、一人の初老の男性が席を立ちあがり、電光表示の座席番号を見ると、お連れに「あっちの席みたいだ」と、日本語で言って、自分はさっと席を離れました。そして、4-5列の奥の方の席番を見たあと、仲間に手招きで「こっちだ・・・・・・・」というような合図を送っています。
( TGV2等車の車内の様子。1999年ごろ。今は、もう少しカラフル )
それを見ていた残りの3人は無言で立ち上がり、私たちに一切言葉をかけず、そして、目も合わせず、膝上の小カバンを持って移動しました。その後、カバンを置いて戻ってくると、頭上の棚に置いてあった旅行カバンやコートを降ろすと、無言で立ち去りました。
その中の一人は、多少、足が悪い様子。おばさま風の同行女性が「・・・・、大丈夫?」と、小声の日本語で声をかけるのが聞こえました。
3人は、私たちなど存在しないような振りをし、反対側の窓の外などに視線を向けながら、ぞろぞろと席を移ったのです。
【2 無言で睨まれる 】
我がマダムにも「あの人たち、こっちの方を、こわそうな眼付きで睨んでいたわよ」と、あとで言われました。
マダムは、私が、最初にフランス語で、次に、英語で質問したのを聞いています。そして、「私たちが日本語でしゃべっているのを、先方の4人には聞こえていたと思う」と、言っています。マダムも、彼らが席を移動するとき、私たちに何も言わず、目線も合わさなかったことも知っていました。常々、マダムには、「あなたも決して感じは良くない」と、言われて続けていますが、そんなレベルの比ではないくらい、彼らの感じは悪かったそうです。
「私たちが、いわゆるフランス人顔だったら、小さくなって『すみません』と、言って席を移動したんだろうね」と、マダムは言っています。彼らは、そういうオーラを持っていたと感じたようです。
「ほんと、いいものを見せていただきました」
こうして、ブログ一作分のネタを提供していただいたのですから、感謝しなければいけません。
【3 つぶれたメンツ 】
我がマダムの想像した、先方ご一行様の心理です。
①リーダーの初老らしき男性は、TGV車内に入るやいなや、入口に近い場所に、予約した内容と同じ4人向かい合わせの席を見つけました。そこで、座席番号を確認せずに、”知ったかぶり”で、「ここだ、ここだあ」と、仲間に向かって自信たっぷりに、本来の私たちの座席を案内して、自分もすわりました。
( 4人向かい合わせの座席は1車両に4カ所くらいあります。ですから、車内の座席番号と自分のキップの番号を照合することが必要です。また、ファミリー向けの人気席なので、二人席と替わるのをいやがる人も多いです。 )
( TGV2等車の座席配置例。ところどころに4人向かい合わせ席がある )
②どんどん乗客が増えてきましたが、しばらく、4人席に来る人がいなかったので、リーダー格は、「どうだ、おれの予約ノウハウはうまいだろう」と、同僚に笑顔を振りまいていました。
③そこへ私たちが登場し、フランス語で座席確認を求められたので、超びっくり。そして、3秒後には、自信たっぷりに陣取った場所が、予約席ではないことに気付きました。そのうえ、相手は、どうやら日本人です。
「お、おれのメンツが、丸つぶれじゃないかあ・・・・・!」
リーダー格の方のプライドは、一瞬で地に堕ちてしましました。足の不自由な母も、『席移るの?』みたいな不満顔を自分に向けたと思い込みます。
④こういうときは、他人、特に、言葉も分かる同胞のニッポン人への責任転嫁が、最初で最終の手段です。座席表示が分かりにくいTGVサービスに文句を言うなんて、これっぽっちも思い浮かびません。
「憎いのは、いま、そこにいる観光客然としたニッポン人。フランス人の前で、俺に恥をかかせやがって!。でも、席は間違えているので、どかなければならない・・・・。」
「俺たちは、あのニッポン人のせいで『席をどかされた』、ちくしょう!」
赤っ恥と、怒り心頭で、私たちを睨みつけますが、すごすごと座席移動せざるを得ないのです。それを察知した他のお三方も、私に恨みをぶつけてシカトします。結局は、リーダーに従って行くしかありません。
【4 パリに呑まれて 】
西暦2000年ごろまでは、海外、特に欧米諸国でニッポン人を見かけると、わざと無視したり、気づかないふりをする日本人旅行者が多い感じでした。けれども、最近は様変わりして、お互いに、「こんにちは、どこから来たのですか。それでは、よい旅を」くらいに声を掛け合うようになったな、と感じていました。
どうやら、この変化は、フランス、特にパリについては当てはまらないのではないかと不安になりました。
それだけ、世界一妖艶(ようえん)なアイドル的観光都市 『パリ』 さまの強烈なオーラは、まだまだ、一部の日本人旅行者をイチコロにするようです。『パリ』 さまに対して、日本人の方からの一方的な疑似恋愛関係ができてしまうのです。
『パリ』を、『フランス』という言葉に置き換えても通用する心理です。ヨーロッパ主要国を観光する場合でも、フランスは独特の雰囲気が強めです。個人旅行のコツを少し覚えただけで、鬼の首を取ったような気持ちになりやすい国です。
「私だけのパリちゃん、他の日本人の方を向いちゃだめ!」
「パリは、私(たち)だけのために、微笑んでいるよの。あんた、目障りだから、どきなさい!」
( パリよ、あたしだけを見て! )
『酒は飲んでも呑まれるな』ですから、『パリを愛でても呑まれるな』です。
【5 リラックスして楽しいTGVの旅を 】
冒頭のような場面で、メンツとかプライドに重きを置く心理は、中国人、韓国人、ニッポン人に、よくありがちな気がします。
たかがTGVの座席チェックです。ときどき指定席の二重発券があったり、車両変更で、当該座席番号がない、という事態も起こります。
お互いに声を掛けあって助け合いましょう、何とかなるさ、旅は道連れ、の気持ちを忘れずにTGVの旅を楽しみましょう。
( TGVは数多くの乗客で大人気 )
今回、私たちの乗った車両内で、座席表示の電光表示が点灯したのは、くだんの方々に問いかける数分前です。もとはと言えば、乗客を車内に入れてから座席番号表示を点灯させるようなSNCFのサービス感覚が混乱の原因です。
それでも、去年も昨日も、何とかなっていたのです。私も、先客に尋ねながら自分たちの座席を探していました。
ですから、
「すみませんが、皆様はこちらの座席ですか?」
「あっ、いけねえ。座席表示が消えていたから、つい、ここだと勘違いして。ごめんね、いま移るから」
このくらいでいいのです。
あるいは、
「間違ったのは私たちで、本当は、3列先の4人席なんです。でも、母の足が悪くて、できるだけ動きたくないのです。ミスをしたのはこっちですが、あちらの4人席と替わっていただけないでしょうか?」
というように受け応えをしてくれたら、事はスムーズに進んだはずです。さらに、会話の途中で、お互いに日本人と分かったのですから、ダメもとで、このような複雑な提案もできたのではないでしょうか。
モンサンミシェルへ個人旅行で行けるスキルを持っていることは重要ですが、これだけでは「仏作って、魂入れず」状態。実際に、その場の状況変化に合わせたり、言うべきことはきちんと言って、満足度も高く、費用対効果も予算どおりの言動をしてこその旅行スキルだと信じて止みません。
かのリーダー格の方は、ご自身では「自信たっぷり」なのでしょうが、端から拝見すると「緊張しています」と顔に書いてありました。
「リラックスしてください。分からないことは、その場で確認してください。そして、よいご旅行を」
2019年6月 記 了