密かにまわるベルサイユ  2019年4月

1 ガイドツアーにそおっと入る

私たちが予約した個人向けガイドツアーは、人知れず、そおっと入ります。始めは、Aile des Ministres Nord=内閣府北棟、という建物にある受付に向かいました。予約券の地図に、はっきりと受付場所は指示してあります。建物前には、きちんと案内表示が出ていますので、迷うことはありません。

ガイドツアーは1組25人程度です。また、時刻をずらして募集していますので、受付に向かうのは一握りの人たちです。ほとんど、誰もいないと言ってよいでしょう。
「あの人たち、何しに行くんだろうね」と、いう風に思われたかもしれません。

Versailles104ガイドツアー受付案内
( ガイドツアー受付場所の案内表示 )
Versaillesガイドツアー受付
( Aile des Ministres Nord:内閣府北棟、の建物 )

ベルサイユに来ると、前方の宮殿玄関の方に視線が集まりますので、左右の建物のことは見落としがちです。衆人注目のなかで受付に入るような場所でなくて、ほっとしました。

日本人にとって一番こわいのは「妬み」です。きちんと手順を踏んでいるのにもかかわらず、「自分だけ得しやがって」と思われると、もうどうしようもありません。


2  粋な待合室

受付のドアを押すと、係のスタッフがいて、「ボンジュー」の一言のあと、すぐさま入場券と予約券を照合、確認されました。そして、背後の廊下沿いに並ぶ待合室のひとつに案内してくれました。トイレは、待合室の並ぶ廊下の奥です。

肌寒い気候の日に、少しばかりですが暖房の入った部屋で、座って待てることに感動しました。室内で防寒と体力温存もできる一石三鳥のサービスに、思わず「ああ、ガイドツアーに申し込んでよかった」。

待合室の壁は、部屋ごとに、ベルサイユ・ムードを醸し出すデザインです。ここは、宮殿の中でも実務遂行のための建物であったようで、質素な印象です。木組みの床は高級そうで、さすがベルサイユ。けれども、定番の金ピカムードは一切ありません。もちろん、現在のニーズに合うよう改修されています。

Versailles105B待合室428
( 連続するガイドツアーの待合室 )

私たちが入った部屋の壁は、国王、王妃、そして公式の愛人である寵姫(ちょうき)の影絵をあしらったデザインでした。

「ほら、マリー・アントワネットもいるよ」

ベルばらファンのマダムは、ベルサイユの雰囲気に呑み込まれていましたので、最初は何のことやらという顔をしていました。私の指した影絵と名前を見ると、急に眼が輝き出しました。”こんなところにも、もうマリー・アントワネットが顔を出すのか”、というマダムの表情が、とても新鮮でした。「物語の世界が現実にあったんだ」、と実感する瞬間は、誰でも体験しているはずです。

しかし、彼女だけ頭飾りが断トツで派手なのですね。

Versailles105Aガイドツアー待合室と壁面
( 私たちの待合室は歴代君主、王妃、寵姫の影絵 )


フランス史の知識がないと、影絵の人物たちの歴史上の位置づけが分かりにくいと思いますが、宮殿見学のムードを出す部屋の雰囲気を味わうだけでも十分だと思います。

ところで、「ベルばら」に登場する人物は何人くらい描かれているのでしょう。マリー・アントワネット、ルイ15世、ルイ16世、デュ・バリー夫人の4人くらいです。


3 ガイドツアーが始まった

集合時刻5分くらい前になると、スタッフの方が現われて、みんなに専用のイヤホンを配り、性能テスト。間髪をおかずに当日のガイドさんも登場して、自己紹介と簡単なルート説明をしました。ガイドツアー用のイヤホンの有無で、ガイドツアー参加者を見分けるので、常時、装着してほしいということも言われました。

それでは、早速出発です。ツアーその他見学者用に「B」ゲートに行き、最優先で入場してセキュリティ・チェックを受け、正面玄関前の、王家の中庭:Le Court de Bonheur に出ました。


Versailles106宮殿真正面 顔塗り
( 王家の中庭と、大理石の正面玄関 )

ガイドさんは、ここでベルサイユの歴史を2-3分で要領よく語ってくれました。ガイドブックやブログのとおりです。
そして、いよいよ、自由見学不可エリアに入って行きました。多くの皆さまがオーディオガイドを借りる部屋を左折したあたりから、仕切りの柵を開けてもらって入り、階段を昇った2階がルイ15世の住まいです。

外から見ると、正面玄関右手の2階付近一帯です。

Versailles112王の私室への裏階段
( ルイ15世の住まいへ上がる階段 )

落ち着いた金箔に彩られた、しっかりと作り込まれた感じの階段を、ぐるぐると昇った先には、金ピカの空間が待っていました。

Versailles107A王の私室へ階段昇る428
( ルイ15世の住まいのオモテの最初の部屋の前 )

ルイ15世の住まいは、いわゆるオモテとオクの2種類がありました。オモテは、特に重要な人物や知人を招き入れる空間です。オクは、本当のプライベート空間で、家族や親せき、超VIPだけの部屋だったそうです。

どちらもベルサイユの基本デザインである、白壁に金泊の縁取りで豪華に飾られ、ギリシャ神話由来の天井画と、輝くばかりのシャンデリアが下がった部屋であることは変わりません。けれども、慣れてくると、オモテの方が、見た目重視で、より豪華絢爛に造られています。オクの方は、暮らしやすいように造られています。石造建築は、真冬に、想像を絶するくらい冷え込むことがあるので、南向けの部屋を作って太陽を取り込み、暖房効果を上げるために間取りを小さくしています。また、派手過ぎる飾りつけは避け、エレガントで落ち着きのある金泊の空間になっていました。

また、ベルサイユ宮殿の家具調度類は、フランス革命真っ盛りのころに大半が競売にかけられて売られました。外国軍や反乱軍に対抗するための戦費調達目的です。国家の存亡がかかっていたのですから当然ですが、よくぞ、建物本体は無傷で残ったと言うべきでしょう。

ですから、見学者が見る家具類の大半は、最近、買い戻したものや、何らかのイベント用にしつらえたものの残りです。その一方、壁や天井やシャンデリアはオリジナルで超豪華絢爛。筆舌に尽くしがたい美しさを放っています。

ベルサイユをいったん見てしまうと、同系統の宮殿は、すべて「ベルサイユと比べるとねえ」、という気持ちでしか鑑賞できなくなります。日本の迎賓館(赤坂離宮)も、その例外ではありません。

ここでは、受け売りの解説など書きません。

ただただ豪華絢爛、エレガントで高貴な雰囲気のルイ15世の住まい、ルイ16世の図書室などの写真を紹介します。

Versailles113C王の謁見室付近
( ルイ15世のVIP謁見の部屋。私室のオモテの続きの間 )

Versailles113A時計の間
Versailles114王の私室の調度
( ルイ15世のVIP謁見の部屋。私室のオモテ )

Versailles115王の私室から雨のテラス
( 王の住まいから見た、私的な中庭 )

Versailles111a外交団通行階段
Versailles111b大使の階段反対側
( VIPがルイ15世に面会するために通った階段 )

ここからは、ルイ15世の住まいのオクの部分になります。
Versailles116王の私的食堂か居間
( 狩りの後の談話室兼軽食室 )

Versailles117a楽器のデザインの部屋
Versailles117王の音楽のサロン
( 家族のサロン。扉と壁が一体化した造り )

Versailles118ルイ16世の図書室
( ルイ16世の図書室。本はレプリカ )

ルイ16世の趣味は、錠前づくりと世界地理。前者は、とても有名ですが、後者は初めて耳にしました。部屋のテーブルは、当時の世界地図が広げられる大きさにしつらえたそうです。

王様が皆、政治的才能に恵まれているわけではありませんから、この程度のカネのあまりかからない趣味に興じてくれるのがベストなのでしょう。

私の思うところ、これは古今東西を問わず共通なようです。

Versailles119a磁器の食堂
( 家族の食堂。調度類は現代のもの )
Versailles120王の娯楽室
( ビリヤードやゲーム室 )

ガイドさんは、ゲームの間あたりから扉を開けて、私たちを自由見学エリアに出してくれました。ヴィーナスの間という部屋で、金ピカで天井画も豪勢なベルサイユ風のインテリア。大勢の観光客で激コミ。大半の人たちは、私たちが入ってきたことに気付かなかったようです。当時との最大の違いです。

「王様や王族は、こうやってプライベート空間から公式の間へ姿を表したんですよ」
という、ガイドさんの説明と上手な誘導に感謝、感激です。
Versailles121b公私境界扉
Versailles121天井画見事一般エリア重複
( ガイドツアーのプライベート空間から、オモテに出たところ )

私たちは、王族よろしく、再びプライベート空間へ密かにもどり、内部の階段を下りて、次の見学先に向かいました。

見ごたえのある王族の私室や、オモテとオクの違い、いろいろな趣向の部屋の数々に感動し、ガイドさんのよどみない英語の解説を耳にしながら、声もなく歩く感じです。

ちなみに、ちょっとだけ他のメンバーと話してみると、中国系のアメリカ人の方、ドイツ人の方などもいました。向こうも「日本人!こんな英語ツアーに珍しいね」という反応でした。


2019年7月記                             了