ビルバオのRENFEの影うすく
1) ビルバオのレアな特急電車
2017年9月現在、ビルバオの長距離電車は、絶滅危惧種です。
( 1日2往復のマドリード行き特急アルビア:Alvia。アバンド駅にて )
ビルバオ・アバンド駅:Abando 発着の特急電車は、1日4往復か5往復しかありません。マドリードやバルセロナに行く途中の峠越え区間でスピードが出ないため、飛行機やバスに比べて競争力がなくなってしまったのです。
下の写真は、アバンド駅の、長距離列車到着案内です。マドリード、バルセロナまで各2本、西の端のビーゴまで1日1本の特急電車があるだけです。マドリード発着の1往復は、休日運休です。
( ビルバオ発着の長距離列車は絶滅寸前。2017年9月 )
マドリードまで、特急電車でも5時間、高速バスでも5時間なので、旅行者は、安くて本数の多い高速バスに流れます。そのため、アバンド駅で、特急電車を見かけたら、とても貴重な旅行体験です。
スペイン版の新幹線が開通するまで、ビルバオと特急列車の縁はうすいままでしょう。
ビルバオ発の夜行列車は、とっくの昔に全滅。4-5時間くらいの距離にあるサラマンカやバヤドリド、ログローニョなどへ往復していた準急列車も、ろうそくの炎が尽きるように、ひっそりと消えた感じです。
2) 観光名所アバンド駅:Estacion Bilbao Abando Indarecio Prieto
長距離列車の衰退と入れ替わるように、アバンド駅は、観光名所化していました。
最近の正式名称は、アバンド・インダレチオ・プリエート駅。何で、長ったらしい名前にしたのでしょうね。まあ、実態としては「アバンド駅」で通用しています。
2017年9月現在、駅舎は改修工事中です。母屋は、列車本数に似合わず、堂々たる構えです。鉄道全盛時代に、スペイン北部の中心都市ビルバオの玄関口として設計された気概が感じられます。どっしりとした石造建築で、5本のプラットホームはすべてドーム屋根で覆われています。
( 改修工事中のRENFEビルバオ・アバンド駅。2017年9月)
( 従前のビルバオ・アバンド駅舎。1990年7月 )
駅舎入口は1階、プラットホームは2階です。ゆるやかな坂にある地形を上手に利用した作りです。
かつては、長距離用の切符売場が1階に並んでいました。今では、通勤通学客を意識したエキナカ商店街に変身です。
バスクの駅なので、ゴミや落書きもなく、床の掃除も行き届き、清潔で静穏な空間が広がっています。
( アバンド駅1階から2階へ上がるエスカレーターを見る )
アバンド駅の2階へあがります。
エスカレーターを上がった右に、きっぷ売場と、近郊電車のきっぷの自動販売機が並んでいます。
( アバンド駅の有人きっぷ売場。階下よりホーム脇に移っていた。2017年9月 )
電車の発着案内表示もあって、一応、駅らしい雰囲気が漂っています。
ただただ広い空間に、申し訳程度に切符売場や電車が見える光景は、少し寂しい限りです。
そして、エスカレーターを降りて、後ろに振り向くと、シュールなオブジェと、アバンド駅名物の大きなステンドグラスが、どどーんと視界に飛び込んできます。
「おおっ」と、ビルバオのすごさに惹かれる瞬間でもあります。
ここは、ビルバオ街歩き名所のひとつなので、かなり観光客がいます。ボランティア・ガイドさんに連れられたガイジン客ご一行様と遭遇するときもあります。
電車に乗らずとも、アバンド駅2階のステンドグラス見物くらいは、是非、お立ち寄りください。
3) そおっと走るRENFE近郊電車
2017年9月時点で、ビルバオのRENFE近郊路線は3系統あります。セルカニアス:Cercanias、というサービスです。すべて、アバンド駅を起終点としています。
観光客に縁があるのは、サントゥルティ:Santurti に向かう路線で、メトロ2号線と、つかず離れず走り、ビスカヤ橋最寄りのポルトゥガレテーテ駅を経て、終点に至ります。
アバンド駅の中央改札口にくると、赤と白に塗り分けられた通勤電車がずらりと並んでいて、ちょっとしたターミナル駅感覚を味わえます。この電車は、マドリード一帯の車両より、一世代前の形式です。
どの系統も、朝夕20分毎、昼間30分から40分毎の運転なので、全体的に、のんびりムードが漂っています。乗客もパラパラ程度です。自転車の持ち込みも可能です。サイクリストも、あまり混雑を気にせず、指定の場所に自転車を持ち込んで、乗ってきます。
環境にやさしい街づくり、交通サービスは、スペインでも当たり前の光景です。
( RENFE近郊電車の自動改札口。自転車利用も可能 )
近郊電車は、向かって右寄りの1番線から5番線に発着します。
特急電車は、左の6番線、7番線、8番線に発着します。特急ホームに入るためには、専用の改札口へ回り、荷物検査を受けます。けっこう、ものものしいのは、過去の列車爆破テロの教訓でしょう。日本人感覚では、びっくりする人がいそうです。
( 長距離ホーム6番線に入線した特急アルビア、マドリード行き )
3) 通勤電車に乗る
近郊電車は、3両1ユニットです。
写真で見ると長い編成のように感じますが、遠近法のなせる錯覚です。
( アバンド駅ホームに揃うRENFE近郊電車。マドリード圏より古いタイプ )
車内はクロスシート。メトロやウスコトレンの電車に比べると、横幅が広く、車体も長いつくりです。軌間1668ミリメートルの広軌鉄道ですが、サイズ的には軌間1435ミリの標準軌の電車と、ほぼ同じです。
( RENFE通勤電車の車内。メトロより広めの空間 )
RENFEの通勤電車:セルカニアスは、ときどき思い出したように、アバンド駅をすうっと発車して行きます。左側通行で走ります。
アバンド駅のプラットホームは、長距離列車用に作られたため、気の遠くなるくらいの長さです。写真の奥に見える坂の下のトンネルをくぐると、すぐに次の駅です。ビルバオ都心部の駅と駅の間は、1kmくらいしか離れていません。
( アバンド駅を発車するRENFE近郊電車。背後はビルバオの団地風新市街側 )
ですから、電車は、スピードを上げる間もなく、次の駅に停車します。数人が乗り降りすると、プシュー、とドアが閉まって、ゆっくりと発車します。
RENFEの電車は、アバンドから20分ほどで、ビスカヤ橋の最寄り駅、ポルトゥガレーテ駅:Portugalete に到着します。メトロの駅と同名ですが、ふたつの駅は1.5kmくらい離れています。RENFEの駅は、ネルビオン川沿いなので、駅を降りると、すぐにビスカヤ橋が見えます。けれども、RENFEに乗るまでが手間なので、日本人の大多数は、メトロ利用のようです。それが、合理的な選択だと思います。
( 朝のRENFEポルトゥガレーテ駅風景 )
( RENFEポルトゥガレーテ駅改札口 )
RENFE近郊電車体験もしたかったので、終点のサントゥルーティまで乗ってきました。
貨物線が、さらに伸びているので、線路は先のほうまで続いています。港町の岸壁沿いにある何の変哲もない駅です。風情も何もありません。発車5分くらい前になると、地元の人が、ばらばらと集まってきて、「はい、発車あ」の世界です。
( サントゥルティ駅に停車中のRENFE近郊電車:Cercanias )
4) 思い出のアバンド駅風景
( 1990年のビルバオ・アバンド駅ホームと、背後のBBVAタワー。長距離列車もそれなりにあった )
1990年夏のアバンド駅プラットホーム風景です。
マドリードから着いた夜行急行が奥の方に停まっています。電気機関車が引っ張る客車急行も待機中。その隣りが、近郊電車です。現在とは逆に、1番線から5番線が長距離列車、6,7,8番線が近郊電車発着ホームでした。
ドーム屋根の向こうにそびえる、現BBVA本店タワービルが、ビルバオのゆるぎない経済力を象徴しているかのようです。
( マドリードより着いた夜行列車。アバンド駅、1990年 )
2017年の現在、茶色と白のカラーリングの客車も、なつかしの一コマとなりました。
乾燥したカステーヤの大地を、羊の群れや、朽ち果てた風車らしき遺構を見ながら、延々と走り続けるスペイン独特の長距離列車の旅も、20年くらい前になくなったようです。ガイジン旅行者の、勝手なノスタルジーですね。
現在では、スペイン国内で、AVEその他の高速電車と、クロスシートの近郊電車以外で移動することは、ほとんど体験不能になったようです。ヨーロッパ風鉄道ムード満点の、コンパートメント方式のスペイン鉄道の旅は、記憶の中だけになりました。
鉄道旅行ファンにとっては、味気ない内容ですが、時代の趨勢です。
( アバンド駅の近郊電車と奥のステンドグラス。1990年 )
しかし、アバンド駅突当りのステンドグラスは、変わらぬ姿です。
( 1990年頃のRENFEのビルバオ近郊電車 )
青地に黄色の帯を巻いた3両1ユニットの近郊電車に、時の流れを感じます。30年経っても、近郊電車は3両編成のまま。同じような内容で、ビルバオ一帯を黙々と走っているというのは、安定というべきか、進歩がないと言うべきか、ちょっと迷います。
2017年9月訪問/2018年3月記 了
1) ビルバオのレアな特急電車
2017年9月現在、ビルバオの長距離電車は、絶滅危惧種です。
( 1日2往復のマドリード行き特急アルビア:Alvia。アバンド駅にて )
ビルバオ・アバンド駅:Abando 発着の特急電車は、1日4往復か5往復しかありません。マドリードやバルセロナに行く途中の峠越え区間でスピードが出ないため、飛行機やバスに比べて競争力がなくなってしまったのです。
下の写真は、アバンド駅の、長距離列車到着案内です。マドリード、バルセロナまで各2本、西の端のビーゴまで1日1本の特急電車があるだけです。マドリード発着の1往復は、休日運休です。
( ビルバオ発着の長距離列車は絶滅寸前。2017年9月 )
マドリードまで、特急電車でも5時間、高速バスでも5時間なので、旅行者は、安くて本数の多い高速バスに流れます。そのため、アバンド駅で、特急電車を見かけたら、とても貴重な旅行体験です。
スペイン版の新幹線が開通するまで、ビルバオと特急列車の縁はうすいままでしょう。
ビルバオ発の夜行列車は、とっくの昔に全滅。4-5時間くらいの距離にあるサラマンカやバヤドリド、ログローニョなどへ往復していた準急列車も、ろうそくの炎が尽きるように、ひっそりと消えた感じです。
2) 観光名所アバンド駅:Estacion Bilbao Abando Indarecio Prieto
長距離列車の衰退と入れ替わるように、アバンド駅は、観光名所化していました。
最近の正式名称は、アバンド・インダレチオ・プリエート駅。何で、長ったらしい名前にしたのでしょうね。まあ、実態としては「アバンド駅」で通用しています。
2017年9月現在、駅舎は改修工事中です。母屋は、列車本数に似合わず、堂々たる構えです。鉄道全盛時代に、スペイン北部の中心都市ビルバオの玄関口として設計された気概が感じられます。どっしりとした石造建築で、5本のプラットホームはすべてドーム屋根で覆われています。
( 改修工事中のRENFEビルバオ・アバンド駅。2017年9月)
( 従前のビルバオ・アバンド駅舎。1990年7月 )
駅舎入口は1階、プラットホームは2階です。ゆるやかな坂にある地形を上手に利用した作りです。
かつては、長距離用の切符売場が1階に並んでいました。今では、通勤通学客を意識したエキナカ商店街に変身です。
バスクの駅なので、ゴミや落書きもなく、床の掃除も行き届き、清潔で静穏な空間が広がっています。
( アバンド駅1階から2階へ上がるエスカレーターを見る )
アバンド駅の2階へあがります。
エスカレーターを上がった右に、きっぷ売場と、近郊電車のきっぷの自動販売機が並んでいます。
( アバンド駅の有人きっぷ売場。階下よりホーム脇に移っていた。2017年9月 )
電車の発着案内表示もあって、一応、駅らしい雰囲気が漂っています。
ただただ広い空間に、申し訳程度に切符売場や電車が見える光景は、少し寂しい限りです。
そして、エスカレーターを降りて、後ろに振り向くと、シュールなオブジェと、アバンド駅名物の大きなステンドグラスが、どどーんと視界に飛び込んできます。
「おおっ」と、ビルバオのすごさに惹かれる瞬間でもあります。
ここは、ビルバオ街歩き名所のひとつなので、かなり観光客がいます。ボランティア・ガイドさんに連れられたガイジン客ご一行様と遭遇するときもあります。
電車に乗らずとも、アバンド駅2階のステンドグラス見物くらいは、是非、お立ち寄りください。
3) そおっと走るRENFE近郊電車
2017年9月時点で、ビルバオのRENFE近郊路線は3系統あります。セルカニアス:Cercanias、というサービスです。すべて、アバンド駅を起終点としています。
観光客に縁があるのは、サントゥルティ:Santurti に向かう路線で、メトロ2号線と、つかず離れず走り、ビスカヤ橋最寄りのポルトゥガレテーテ駅を経て、終点に至ります。
アバンド駅の中央改札口にくると、赤と白に塗り分けられた通勤電車がずらりと並んでいて、ちょっとしたターミナル駅感覚を味わえます。この電車は、マドリード一帯の車両より、一世代前の形式です。
どの系統も、朝夕20分毎、昼間30分から40分毎の運転なので、全体的に、のんびりムードが漂っています。乗客もパラパラ程度です。自転車の持ち込みも可能です。サイクリストも、あまり混雑を気にせず、指定の場所に自転車を持ち込んで、乗ってきます。
環境にやさしい街づくり、交通サービスは、スペインでも当たり前の光景です。
( RENFE近郊電車の自動改札口。自転車利用も可能 )
近郊電車は、向かって右寄りの1番線から5番線に発着します。
特急電車は、左の6番線、7番線、8番線に発着します。特急ホームに入るためには、専用の改札口へ回り、荷物検査を受けます。けっこう、ものものしいのは、過去の列車爆破テロの教訓でしょう。日本人感覚では、びっくりする人がいそうです。
( 長距離ホーム6番線に入線した特急アルビア、マドリード行き )
3) 通勤電車に乗る
近郊電車は、3両1ユニットです。
写真で見ると長い編成のように感じますが、遠近法のなせる錯覚です。
( アバンド駅ホームに揃うRENFE近郊電車。マドリード圏より古いタイプ )
車内はクロスシート。メトロやウスコトレンの電車に比べると、横幅が広く、車体も長いつくりです。軌間1668ミリメートルの広軌鉄道ですが、サイズ的には軌間1435ミリの標準軌の電車と、ほぼ同じです。
( RENFE通勤電車の車内。メトロより広めの空間 )
RENFEの通勤電車:セルカニアスは、ときどき思い出したように、アバンド駅をすうっと発車して行きます。左側通行で走ります。
アバンド駅のプラットホームは、長距離列車用に作られたため、気の遠くなるくらいの長さです。写真の奥に見える坂の下のトンネルをくぐると、すぐに次の駅です。ビルバオ都心部の駅と駅の間は、1kmくらいしか離れていません。
( アバンド駅を発車するRENFE近郊電車。背後はビルバオの団地風新市街側 )
ですから、電車は、スピードを上げる間もなく、次の駅に停車します。数人が乗り降りすると、プシュー、とドアが閉まって、ゆっくりと発車します。
RENFEの電車は、アバンドから20分ほどで、ビスカヤ橋の最寄り駅、ポルトゥガレーテ駅:Portugalete に到着します。メトロの駅と同名ですが、ふたつの駅は1.5kmくらい離れています。RENFEの駅は、ネルビオン川沿いなので、駅を降りると、すぐにビスカヤ橋が見えます。けれども、RENFEに乗るまでが手間なので、日本人の大多数は、メトロ利用のようです。それが、合理的な選択だと思います。
( 朝のRENFEポルトゥガレーテ駅風景 )
( RENFEポルトゥガレーテ駅改札口 )
RENFE近郊電車体験もしたかったので、終点のサントゥルーティまで乗ってきました。
貨物線が、さらに伸びているので、線路は先のほうまで続いています。港町の岸壁沿いにある何の変哲もない駅です。風情も何もありません。発車5分くらい前になると、地元の人が、ばらばらと集まってきて、「はい、発車あ」の世界です。
( サントゥルティ駅に停車中のRENFE近郊電車:Cercanias )
4) 思い出のアバンド駅風景
( 1990年のビルバオ・アバンド駅ホームと、背後のBBVAタワー。長距離列車もそれなりにあった )
1990年夏のアバンド駅プラットホーム風景です。
マドリードから着いた夜行急行が奥の方に停まっています。電気機関車が引っ張る客車急行も待機中。その隣りが、近郊電車です。現在とは逆に、1番線から5番線が長距離列車、6,7,8番線が近郊電車発着ホームでした。
ドーム屋根の向こうにそびえる、現BBVA本店タワービルが、ビルバオのゆるぎない経済力を象徴しているかのようです。
( マドリードより着いた夜行列車。アバンド駅、1990年 )
2017年の現在、茶色と白のカラーリングの客車も、なつかしの一コマとなりました。
乾燥したカステーヤの大地を、羊の群れや、朽ち果てた風車らしき遺構を見ながら、延々と走り続けるスペイン独特の長距離列車の旅も、20年くらい前になくなったようです。ガイジン旅行者の、勝手なノスタルジーですね。
現在では、スペイン国内で、AVEその他の高速電車と、クロスシートの近郊電車以外で移動することは、ほとんど体験不能になったようです。ヨーロッパ風鉄道ムード満点の、コンパートメント方式のスペイン鉄道の旅は、記憶の中だけになりました。
鉄道旅行ファンにとっては、味気ない内容ですが、時代の趨勢です。
( アバンド駅の近郊電車と奥のステンドグラス。1990年 )
しかし、アバンド駅突当りのステンドグラスは、変わらぬ姿です。
( 1990年頃のRENFEのビルバオ近郊電車 )
青地に黄色の帯を巻いた3両1ユニットの近郊電車に、時の流れを感じます。30年経っても、近郊電車は3両編成のまま。同じような内容で、ビルバオ一帯を黙々と走っているというのは、安定というべきか、進歩がないと言うべきか、ちょっと迷います。
2017年9月訪問/2018年3月記 了