やまぶきシニアトラベラー

気まぐれシニア・トラベラーの旅。あの日から、いつか来る日まで、かつ、めぐりて、かつ、とどまる旅をします。

アチューリ

酔狂で乗るウスコトレン各駅停車

酔狂で乗るウスコトレン各駅停車  2017年9月

1)ウスコトレンは遅い

バスク鉄道ことウスコトレン:Euskotrenは、ハイレベルな狭軌鉄道ですが、スピードが遅いのが玉に傷です。
それも、かなり大きい傷です。

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( ウスコトレンのロゴと950型車体側面 )

安全、安心、清潔、正確。安いし、本数も多めのラウンドダイヤで、時刻表要らずで乗れるのはいいのですが、遅いのです。最高時速は90km、平均時速は30kmから40kmくらいです。電車は、ほとんどが各駅停車で、快速や急行は、ビルバオ付近で平日通勤時に数往復走っているだけです。

ウスコトレンでの20分から30分くらいの短距離通勤や移動は苦になりませんが、1時間くらい離れた場所に行くときは、バスの方が早いことも、しばしばです。

特に、ドノスティア、ビルバオ間の約100kmは、ウスコトレンの各駅停車で移動すると2時間半以上かかります。1時間おきの運転で、運賃は6ユーロです。

この区間は、高速バス利用が圧倒的に便利です。所要時間は1時間半以下、朝6時から午後10時過ぎまで10分から30分間隔で発車。運賃は7ユーロから18ユーロくらいです。鉄道は競争に勝てません。


2)酔狂な電車移動

そういう区間なので、今回は、意を決してウスコトレン鈍行列車の旅を試しました。鉄道の旅も好きなのですが、ちょっと酔狂な電車の旅でした。

始発は、ドノスティア・アマラ駅:Amara Donostia です。狭軌で、折り返し式の駅なので、プラットホームの先端に立って線路を眺めると、日本の大手私鉄と変わらない鉄道風景が目に入ります。

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( ウスコトレンのアマラ駅から見る線路 )
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( アマラ駅正面 )

ドノスティア、つまりサンセバスチャンから電車に乗って、延々と西へ進むとビルバオです。

2017年4月8日より、ウスコトレンはビルバオの地下鉄3号線と相互乗り入れを開始しました。新しい終点は、マティコ駅:Matiko, Bilbao です。旧来のアチューリ駅には入りません。その代わり、他のメトロとの乗換や、都心部へのアクセスが便利なサスピカレアク/カスコビエホ駅:Zazpikaleak/ Casco Viejo に直行できるようになりました。

「また、ひとつビルバオのウスコトレンが便利になりましたね」
「まあね。でも、電車は遅いよ」
「マティコまで2時間50分かかりますものね」
「そういうこと。近隣の通勤通学者は便が良くなったと思うよ」

東武の宇都宮あたりで、「東武の電車も半蔵門線乗入れだから、渋谷まで乗換なしで行けるよ」と、会話しているような感じです。

車内の路線図は、ばっちり、新しい運転系統のものに変わっていました。けれども、9月ごろの段階では、website上の路線図や時刻表は旧来のままでした。年末になって、やっと変更されました。勤勉なバスクでも、意外と、のんびりしたところもあるので、ほっとします。

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( ビルバオ・マティコまで相互乗り入れ表示をした車内路線図 )


写真は、午後の明るい時間帯のアマラ駅ホーム風景です。
さわやかな雰囲気の駅です。

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( 午後の陽ざしを浴びるアマラ駅と電車 )

ビルバオ行き電車は、アマラ駅を定刻に発車しました。ここから西では、電車は左側通行となります。進行方向右側に乗ると、ところどころで海が見えます。左側に乗って2時間くらいすると、ドゥランゴ:Durango  という小都市の奥にそびえている石灰岩の奇峰が見えます。

電車は、たいていすいています。景色に合わせて席を移れば、ギプスコア県からビスカヤ県一帯の田園風景のハイライトを、居ながらにして見られます。

だんだん退屈してきて、ぼおっとしていても大丈夫です。この辺りでは、旅の者の荷物をかすめ取るような軽犯罪は、めったにありません。


3) 海と山と集落と

車窓から、雲間にカンタビリアの海と、石灰岩質の崖が荒々しい海岸風景が、ちらりと見えました。

山陰本線の出雲市から江津あたりの車窓風景と似ている気がしました。林の中をくねくねと走る列車は、ところどころでトンネルに入ったかと思うと、砂浜を取り囲むようにできた集落を見渡すように走ります。

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( ウスコトレンの車窓から望む海、サラウツ前後 )

線路は、山すそや、川の蛇行に忠実に沿ってカーブしながら西へ西へと続いています。日本に、とても似ている雰囲気の場所を走ることもあります。

”のんびり過ぎるバスク途中下車の旅”、というタイトルで、テレビ放映してほしいな、と思います。


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( ウスコトレンの車窓から見える川と緑の山々 )

電車は、30分から1時間におきくらいに、それなりの規模の町に入ります。電車は、サラウツ、デバ、エイバル、ドゥランゴなどを経て、終点のビルバオに向かって行きます。



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( デバ駅プラットホームと電車 )

途中の駅は、年季の入った建物も少なくありません。そして、有人駅は、よく手入れされています。簡易型自動改札機も全線で設置済みです。

ウスコトレンの主要駅は、古風な外観を保ちつつ、21世紀型サービスの提供も怠ってはいません。常に、時代にキャッチアップするべく、投資を続ける経営姿勢に、とても好感が持てます。

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( デバ駅の改札口と簡易自動改札機 )

ウスコトレンのビルバオ行きは、行程の半分あたりで、U字カーブを切りながら峠越えする区間に入ります。

緑いっぱいの山々の間に、小さな町が点在しています。しかし、一帯は、過疎になやむ山村ではありません。中小の機械系の工場がたくさんある工業地帯です。ウスコトレンの電車を製造しているCAFという車両メーカーの登記上の本社も、こういう雰囲気の小都市、ギプスコア県のベアサインという町にあります。エイバル:Eibar という都市のサッカーチームは、スペイン全国リーグ入りをするくらいの強さです。

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( 県境の山間にある小工業都市風景 )


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( 現代的製造業が盛んなエイバルの駅 )


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( ドゥランゴ付近から遠望する石灰石の山々 )

電車は、山合いの谷間をくねくねと走り、小さな町ごとに、パラパラと乗ったり降りたりを繰り返しながら、ビルバオ近郊まで来ました。線路の左右に、10階建てくらいのマンションが点在するようになると、ビルバオ通勤圏です。いつの間にか線路も複線になり、スピードも上がって、コンスタントに時速80km以上を出すようになります。

メトロ3号線への乗り入れ駅、ククヤーガ・エチェバリ駅:Kukullaga Etxebarri に到着です。

相互乗り入れ開始に際して、全面的に改築され、真新しい駅と何ら変わりません。日本の大都市郊外の新興住宅地に伸びてきた私鉄新線の駅の雰囲気です。プラットホームと電車の床面の高さが、ぴったりと揃い、駅の色合いも日本のカラーリングセンスと似ているのも、親近感のひとつの理由だと感じました。

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( ククヤーガ・エチェバリ駅で発車待ちのメトロ直通電車 )

メトロ3号線は、ウスコトレン仕様で建設され、ウスコトレンが運転しているので、ウスコトレンの地下新線と言っても過言ではありません。

きょろきょろと、地下新線区間を物珍し気に見ている間に、ビルバオ都心部への最寄り駅、サスピカレアク / カスコビエホ 駅に到着しました。

「よくぞ電車で来たもんだ! ちょっと疲れたあ」
「次は、やっぱ、高速バスにしよっ!」

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4) 消え始める風景

別のタイミングで、ウスコトレンのビルバオの本拠地アチューリ駅:Atxuri を訪問しました。
駅舎は、100年くらい経つ、重厚な感じの石造建築です。少し暗い印象です。


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( アチューリ駅正面と、トランヴィア )

メトロとの直通運転開始で、アチューリ駅に入ってくる電車は、かつての半分以下です。土曜休日には、1時間に1本しか電車がありません。もう少しすると、郊外電車の発着をやめ、市電相当のトランヴィアをククヤーガ・エチェバリまで延長して、路線網をすっきり再編成したいようです。

そうなった頃に、また、ビルバオに行けたらいいなあ。

脳裏に、そんなことを浮かべながら構内に入ると、ウスコトレン新旧電車三代が、そろい踏みでプラットホームに停まっていました。左端が、現役で一番古い200型、真ん中が最新鋭900型、右端が300型です。右の奥に、ちらりと見える黄緑と白の車体は、トランヴィアで、昼間は使わない編成をアチューリ駅の隅に留置しているようです。

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( ウスコトレン三代。左から200系、900系、300系 )


ウスコトレンも、アチューリ駅も、バスク旅行気分を、じんわりと盛り上げてくれる脇役です。リピーターの方々、お住まいの方々にとって、いつまでも身近な公共交通機関でありますように。


                                                  2018年3月記   了



















































ビルバオめぐるトランヴィア

ビルバオめぐるトランヴィア   2017年9月


1) トランヴィアに乗ろう

トランヴィア:Tranvi*a は、2002年開業のLRT:Light Rail Transit です。

あえて訳せば、ビルバオ市電ですが、昔ながらのチンチン電車ではありません。バリアフリー、低騒音、低運賃、芝生軌道、現代デザインの、弱者と環境にやさしい21世紀を意識した乗り物です。
線路の幅は、ウスコトレン、メトロと同じ1000ミリメートル。日本のJRや大部分の私鉄より軌間が67ミリほどせまいだけの狭軌鉄道です。

大きな曲面ガラスと、縦幅の長い窓の黄緑色のイメージの電車は、とてもスマート。ビルバオの新しいビル群にお似合いです。街中歩きで目にすると、絶対に乗りたくなる乗り物です。安全、安心ですので、おじけづかずに乗りましょう。

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( グッゲンハイム付近の芝生軌道を走るビルバオのトランヴィア )

トランヴィアは、グッゲンハイム美術館と同じように、今世紀のビルバオをリードする存在です。観光にも便利な電車で、カスコビエホ脇のアリアーガや、グッゲンハイム、高速バスターミナル直結のサン・マメスなども通ります。居ながらにしてビルバオの過去、現在、近未来が見えます。テーマパーク内の乗り物気分です。
運賃は均一制で、バリクカードで0.73ユーロ、現金で1.5ユーロ(2017年9月現在)です。全線の所要時間は22分。昼間は10分ごとの運転です。

車内でウトウトしても、スリはいません。でも、キセル乗車は絶対にいけません。

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( トランヴィアの車内。ワンマン運転。ほとんど混まない )


2) 始発駅は地味に

トランヴィアの東の起点アチューリ:Atxuri です。近郊電車ウスコトレン:Euskotren のアチューリ駅前が停留所です。2017年4月から、ウスコトレンの半分以上の電車が、都心部に近いカスコ・ビエホ方面に行くメトロ3号線と相互乗り入れを開始したので、アチューリ駅は、かなり寂れてしまいました。

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( アチューリ駅前に停車中のトランヴィア )

アチューリ駅は、ウスコトレン、日本語訳バスク鉄道のビルバオのターミナル駅として建設されたので、装飾も凝っている堂々たる建物です。

トランヴィアは、乗車前にバリクカードをタッチするか、きっぷを買って自分で改札機に通します。電車内で、カードをタッチしたり、現金精算することはできません。ビルバオ・ルールですから、慣れるしかありません。

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( バリクカードのタッチ装置 )

トランヴィアのカード・リーダーです。始発のアチューリで写真撮り忘れたので、アバンド停留所のもので代用です。
カードがない人は、自動販売機できっぷを都度買います。少額紙幣も使え、つり銭もきちんと出ます。
きっぷを買ったら、乗車前に、赤い矢印の先にある、自動消印装置にきっぷを差し込んで、使用済み状態にします。ヨーロッパで、よくある方式です。

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( トランヴィアのきっぷ販売機 )

黄緑色の自動販売機は、大型で、とても頑丈そうです。数時間おきに係員が回ってチェックしています。几帳面なバスク気質を反映して、故障やつり銭切れを見たことはありません。つまり、検札のとき、”機械の故障できっぷを買えなかったとか、タッチ忘れた”、という言い訳は99.99%ウソ、です。

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( トランヴィアの運転席 )

トランヴィアの一番前に乗ると、運転手さんと同じように前方の景色が見えます。童心に帰って、わくわくしながら眺めるのがいいかも。
スペインでは、運転席かぶりつきのような鉄道趣味はないので、もしかしたら、運転手さんが気味悪るがるかも知れません。

「信号よし、出発進行!」


3) 静かに走ろうビルバオ

スペイン人はおしゃべりです。
けれども、トランヴィアもメトロもバスも、ビルバオの乗り物の車内はたいてい静かです。

ニッポン:
「ご乗車ありがとうございます。この電車は、ラ・カシーヤ行きです。後ろ乗り、前降りです。運賃は170・・・エンです。カードリーダーに、ピッという音がなるまでタッチしてください。車両なかほどに優先席がございます。急ブレーキにご注意ください」
(運転手さんの肉声で)「14時50分発ラ・カシーヤ行きです。あと1分少々で発車です」
「ドアが閉まります。ご注意ください」
(運転手さんの肉声で)「ドア閉めまーす」

ピンポーン「次は、リベラです。お出口は右側です」
LEDの文字表示は、日本語、英語、中文、ハングルが、繰り返し流れるように出ています。

うるさいぞお!!音声案内は日本語しかないし、ガイジン客はどうすればいいんだ。

トランヴィア:
電子音で、ププーーー”。ドアが閉まって、静かに発車。案内放送は一切なし。

ポーン「リベラ」
LEDの文字表示は、アルファベットで書いた駅名がずっと表示されているのみ。

たった、これだけです。無口なスペイン人のようです。

少しは、静かなトランヴィア車内を見習ってほしいのですが。


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( リベラ停留所。左がラ・リベラ市場(いちば) )

アチューリから、4つ目の停留所プラサ・バロハまでは単線です。三連接車体の電車が、くねくねと旧市街脇の狭い道を急カーブ、急スロープでゆっくりと走り抜けます。途中、アリアーガで必ず上下線の電車が交換します。道路上を走るので、トランヴィアは右側通行です。


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( アリアーガ停留所に入るラ・カシーヤ行きトランヴィア )

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( アリアーガ停留所では、必ず電車交換 )

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( アリアーガ劇場を回り込み、アーレナル橋を上り勾配で渡ると、アバンド停留所 )


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( 急カーブを過ぎてアバンド停留所に着くアチューリ行き )


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( アバンドから、再び急カーブ、急スロープでネルビオン川左岸に出る )

線路は、ネルビオン川沿いに出た付近で複線になります。少し走ると、芝生軌道になります。環境にやさしいトランヴィアの名前に負けない風景の中を走ります。


4) クライマックスはグッゲンハイム

ネルビオン川沿いからグッゲンハイム、ウスカルディナ付近が、トランヴィアでもっともダイナミックな風景が展開する区間です。川沿いの公園や、美術館、高層ビル、センスのよいホテルやマンションを右や左に見ながらトランヴィアは、少しゆっくり目に走ります。歩くのが面倒な方は、この付近の車窓風景を楽しまれますように。

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( スビスリを遠目に見てトランヴィアは走る )

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( グッゲンハイム美術館の下をくぐるためカーブ )

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( グッゲンハイムの下をくぐるトランヴィアの線路 )

電車は、きちんと次の停留所を自動音声で告げてくれます。

ポーン。「グッグ(ン)アイム」
「・・・・・・・・・・・」
「旅のお方、グッゲンハイム美術館はここですよ」
「えっ、ほんとだ。ありがとうございます」
「よい、いちにちを」

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( Guggenheim 停留所。美術館より、ちょっと西側にある )

グッグアイムを過ぎると、しばらく新しい公園の中を走ります。イベルドローラ・タワーや、ウスカルドゥナを見やると、電車は左にカーブして、緩やかな坂道を上り始めます。サビーノ・アラナ大路です。
初秋のさわやかな風が、並木をさわさわと揺らしていて、とても清々しい気分でした。

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( Avenida Sabino Arana。 トランヴィアの線路は、植樹帯の左にあります )


5) いきいきサン・マメス停留所

”サン・マメス”

アスレティック・ビルバオ・サンマメス・スタディアム下車停留所です。
旅行者の多くにとって、馴染み深くなった地名です。だんだんビルバオ市民のような気分になってきました。
「メトロ、RENFE、FEVE、高速バスご利用の方はお乗換です。バスク大学本部行きノンストップ・バスご利用の方は、進行方向前方にお進みください」、とは、トランヴィアでは放送しません。

若い人が、いっぱい居て、現代的なビルがたくさんあって、山の緑も目に入る、この停留所が、私はけっこう好きです。

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( 2枚とも、サン・マメス停留所。背後はバスク大工学部校舎 )

サン・マメスを出たトランヴィアは、「コ」の字形に、高速バスターミナルを周り込むように走ります。頭を東に向けたところで出た大通りが、アウトノミア通り:Autonomia です。新市街を、ぐるっと大回りした感じで、ラスト区間に入ります。


6) 終点、ラ・カシーヤです

ちょっとだけ、ガタゴトと音を立てて、電車は終点ラ・カシーヤ: La Casilla に到着です。バスしか接続しない、中途半端な場所ですが、近隣住民の方が、けっこう乗り降りしています。

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( ラ・カシーヤに到着するトランヴィア )

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( ラ・カシーヤで折返し待ち )

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( ラ・カシーヤ終点から東の都心部方向は、線路が途切れておしまい )

いったん、車内の客となれば、徒歩観光にも劣らず、さまざまなビルバオ風景が見られます。
乗っても損はない電車のミニ・トリップです。

「ここから、どうやって次に進めばいいんでしょうか?」
「斜め左前方あたりを目標にして15分か20分歩くと、モユア広場に出ます。次は、歩いてビルバオを楽しみましょう。ちなみに、バルは、左折して歩いて行くとあります」
「ありがとう」

メモ2002年開業 約5.5km 22分



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