ラ・トーレ・デリ・アキーラ食堂で昇天 2018年3月訪問
1) パヴィアでもガストロノミー:Gastronomy
パヴィアでも一食を大切にします。イタリアも、全国区で食べ物が美味しい国のひとつです。
イタリアの中小都市は、お昼時になると、めっきり人通りが減ります。パヴィアも例外ではありません。その代わり、食堂やバルが混雑します。
ランチに連れて行ってくれたのは、ラ・トーレ・デリ・アキーラ:La Torre degli Aquila というカジュアル気分の食堂でした。お店は、市内屈指の目抜き通りCorso Nueba Strada:新街道通り、に面しています。建物の名前が、ずばり、レストランの名前です。
このお店は、各種ブログにも載っています。サクラのコメントもなさそうで、評判どおりの美味しいお店です。
見た目からして、わくわくするような雰囲気のレストランです。
( ラ・トーレ・デリ・アキーラの店構え )
ラ・トーレ・デリ・アキーラは、地元でも人気店なので、かなり混み合います。少しピークをはずせば、予約がなくとも入れる感じです。多くの人たちは、どんどん食べて、どんどんお会計を済ませて出て行くからです。
ドアを開けて入いると、目の前にバル・カウンターがあり、左に小さなテーブル席も見えます。カウンター右手の階段を数段上がった奥の空間が、本格的な食事の間で、テーブルが5-6卓くらい置いてあります。内部は、年代もので、壁には、昔の調理用具が飾りとして引っ掛けてありました。イタリアに多い、茶色がかった黄色の壁が印象的です。
太いダクトが、現代空間であることを物語っています。このダクトのおかげで、私たちは、調理場からもうもうと上がる煙に悩まされずに済んでいるのです。
( ラ・トーレ・デリ・アキーレのテーブルとインテリア )
ガイジンには、こういうインテリアがいいのですが、地元の人たちには、当たり前すぎる景色なのでしょう。あまり注目されていないようです。とにかく、ほのぼのとした雰囲気の漂う家族経営の食堂です。
2) メニューはあってなきが如し
食の美味しい国の泣き所のひとつは、食事の流れや、外食の流儀をすんなり会得しにくいことです。食も文化なので、地域や生活パターンと密着しています。流れに乗って楽しい食事をするためには、少し慣れが必要なのです。
また、ガイジンにはメニューが難解であったり、料理の名前から内容が想像できないことも多いです。ニッポン、中国、フランス、スペイン、イタリア・・・・・・・、いずこの国でも抽象的な料理名が頻発します。「たぬきそば」なんて、典型的な例です。
ラ・トーレ・デリ・アキーラも、メニューと料理が一致しない店の系統です。
席に着くと、メニューを小脇に抱えたおばあさんがやってきて、あいさつのあと、いきなり口上を述べ始めます。様子から察するに、オーナー婦人のようです。
イタリア語なので、話の内容は理解できませんが、何のことを言っているかは、表情や口調で分かります。
「今日のプリモは、トマトソースのタリアッテーレ・・・・・。メインは、うさぎ肉の・・・・・・です」
「わかりました。ちょっと考えてから決めます。ところで、普通のメニューもあるんでしょ?」
と、友人が聞くと、おばあさんは、
「これですが、一応、置いていきましょう」と答えて去って行きました。
ちなみに、この時点で、私は、何の料理を説明されたのか全く分かりません。友人に、一つ一つ説明を受けました。プリモと呼んでいる一皿目が4種類、二皿目が3種類くらいありました。
「ほら、メニュー見ても意味ないね」
と、言いながら友人が開いたメニューの内容の恐ろしく単純なこと。
左のページ上部から内容が始まるのですが、何と、"プリモ8ユーロ”、メインとなる肉料理は”普通12ユーロ、特別料理15ユーロ”、みたいなことしか印刷されていません。
右のページにも、デザート(ドルチェ)が幾らとか、コースあり30ユーロのようなことしか書いてなかった感じです。
思わず、「げっ」とするような書きっぷりです。メニュー上の料理名を見て、「どれもこれも捨てがたいなあ」などと優雅に悩むどころではありません。
けれども、体験論的には、こういう雰囲気の食堂こそ、とても美味しく、楽しいひとときになる場合が多いです。
私のように、幸運にもサポートがあったので、口頭で告げられたメニューを80%くらい理解して注文するか、聞き返しても30%くらいしか理解が深まらない状態で、「ええい、ままよ」と、自分なりに料理を想像して注文するか、の違いです。どちらにせよ、出てくる料理は、好き嫌いを別にすれば、とっても美味しいのです。
3) 二皿食べて昇天
一皿目は、「トマトソースのタリアッテーレ」という、きしめん状のパスタを食べました。程よい堅さで、トマトソースがしつこくなくからんできて、つるつるっとお腹に入っていく感じです。
平たい麺も、太さや舌ざわりによって、めいめい呼び名があるのですが、私は、いまだに判別できません。いつか、料理本を見せてもらったとき、似たようなパスタでも、ぐっちゃりと別々の名前が振ってあったのを見て、「こりゃ、覚えきれないわ」と思ったくらいです。
友人は、クリームソースのラビオリを食べました。イタリア風の水ぎょうざ、と言ったら、怒られますでしょうか。
( トマトソースのタリアッテーレ )
( クリームソースのラビオリ )
二皿目は、パヴィア名物、「オリーブ風味の、あぶりうさぎ肉のポレンタ添え」を注文。友人は、「半分ずつシェアすれば二品味わえる」と言って、「鹿肉のきのこソース煮込み」を注文しました。両方ともに、1回くらいマダムの説明を受けただけは、正確に想像することが難しい料理です。
( あぶりうさぎ肉のポレンタ添え )
( 鹿肉のきのこソース煮込み )
素人が、料理の味わいを説明するのは、とても難しいです。
うさぎ肉は、オリーブの風味が効いているので、臭みもありません。食用に養殖された肉なので、すじもなく、あっさりした感じです。私はポレンタが好きですが、トーレ・デリ・アキーラのポレンタも、メイズ(とうもろこし)の甘味が、ほんのりと口の中に広がるやわらかい食感が、うさぎ肉とバランスしていて、とても感動しました。
一方の、鹿肉も、濃厚なきのこソースで十分煮込んだためでしょう、だしのような味わいが肉にしみ込んでいて、まろやかな食感です。肉も、すじまで柔らかくなるよう煮込まれています。
「いやあ、こんな美味しいイタリア料理食べたの久しぶり。うさぎや、鹿だの、普通の旅行者じゃ、手がでないからね。もう、思い残すことはありません!」
「うふふ」
「昔話で、ある食通の老婦人が、美味しい夕食のあと、『もうすぐお迎えが来そうだから、早くデザート持って来て!』と言って、デザートを食べたあと、幸せいっぱいの表情で、こと切れた、という物語がありましたが、私も、それと同じ気分です」
「つまり、英語でいう”Happy Die” 状態なのね」
「その通りです!」
「うん、わかった。じゃあ、デザートを頼みましょう」
となり、再度、おばあさんに声を掛けました。
4) 再び口頭メニュー
またまた、おばあさんの口から、5つくらい、今日のデザートが紹介されます。シャーベット、ティラミス・・・・・・、と残りは理解できません。しかし、最後の一品は、発音だけ分かりました。
「おばあさんのタルト!」
名前に惹かれて、即決で決めました。あとで説明を聞くと、いわゆるシンプルな外観と味の家庭風のタルトだそうで、おばあちゃん直伝のイメージから付いた名前だそうです。
( おばあさんのタルト )
頭の中で思っていたとおりの、シンプルで控えめな甘さの、どこか懐かしさを覚えるタルトでした。
蛇足ながら、もちろん、プロの手によるもので、テーブルの間を足しげく通うおばあさんの手料理ではありません。
お会計ですが、1人あたり25ユーロ程度でした。とても美味しかったラ・トーレ・デリ・アキーラに、心から笑顔でさようなら。
2018年8月記 了
1) パヴィアでもガストロノミー:Gastronomy
パヴィアでも一食を大切にします。イタリアも、全国区で食べ物が美味しい国のひとつです。
イタリアの中小都市は、お昼時になると、めっきり人通りが減ります。パヴィアも例外ではありません。その代わり、食堂やバルが混雑します。
ランチに連れて行ってくれたのは、ラ・トーレ・デリ・アキーラ:La Torre degli Aquila というカジュアル気分の食堂でした。お店は、市内屈指の目抜き通りCorso Nueba Strada:新街道通り、に面しています。建物の名前が、ずばり、レストランの名前です。
このお店は、各種ブログにも載っています。サクラのコメントもなさそうで、評判どおりの美味しいお店です。
見た目からして、わくわくするような雰囲気のレストランです。
( ラ・トーレ・デリ・アキーラの店構え )
ラ・トーレ・デリ・アキーラは、地元でも人気店なので、かなり混み合います。少しピークをはずせば、予約がなくとも入れる感じです。多くの人たちは、どんどん食べて、どんどんお会計を済ませて出て行くからです。
ドアを開けて入いると、目の前にバル・カウンターがあり、左に小さなテーブル席も見えます。カウンター右手の階段を数段上がった奥の空間が、本格的な食事の間で、テーブルが5-6卓くらい置いてあります。内部は、年代もので、壁には、昔の調理用具が飾りとして引っ掛けてありました。イタリアに多い、茶色がかった黄色の壁が印象的です。
太いダクトが、現代空間であることを物語っています。このダクトのおかげで、私たちは、調理場からもうもうと上がる煙に悩まされずに済んでいるのです。
( ラ・トーレ・デリ・アキーレのテーブルとインテリア )
ガイジンには、こういうインテリアがいいのですが、地元の人たちには、当たり前すぎる景色なのでしょう。あまり注目されていないようです。とにかく、ほのぼのとした雰囲気の漂う家族経営の食堂です。
2) メニューはあってなきが如し
食の美味しい国の泣き所のひとつは、食事の流れや、外食の流儀をすんなり会得しにくいことです。食も文化なので、地域や生活パターンと密着しています。流れに乗って楽しい食事をするためには、少し慣れが必要なのです。
また、ガイジンにはメニューが難解であったり、料理の名前から内容が想像できないことも多いです。ニッポン、中国、フランス、スペイン、イタリア・・・・・・・、いずこの国でも抽象的な料理名が頻発します。「たぬきそば」なんて、典型的な例です。
ラ・トーレ・デリ・アキーラも、メニューと料理が一致しない店の系統です。
席に着くと、メニューを小脇に抱えたおばあさんがやってきて、あいさつのあと、いきなり口上を述べ始めます。様子から察するに、オーナー婦人のようです。
イタリア語なので、話の内容は理解できませんが、何のことを言っているかは、表情や口調で分かります。
「今日のプリモは、トマトソースのタリアッテーレ・・・・・。メインは、うさぎ肉の・・・・・・です」
「わかりました。ちょっと考えてから決めます。ところで、普通のメニューもあるんでしょ?」
と、友人が聞くと、おばあさんは、
「これですが、一応、置いていきましょう」と答えて去って行きました。
ちなみに、この時点で、私は、何の料理を説明されたのか全く分かりません。友人に、一つ一つ説明を受けました。プリモと呼んでいる一皿目が4種類、二皿目が3種類くらいありました。
「ほら、メニュー見ても意味ないね」
と、言いながら友人が開いたメニューの内容の恐ろしく単純なこと。
左のページ上部から内容が始まるのですが、何と、"プリモ8ユーロ”、メインとなる肉料理は”普通12ユーロ、特別料理15ユーロ”、みたいなことしか印刷されていません。
右のページにも、デザート(ドルチェ)が幾らとか、コースあり30ユーロのようなことしか書いてなかった感じです。
思わず、「げっ」とするような書きっぷりです。メニュー上の料理名を見て、「どれもこれも捨てがたいなあ」などと優雅に悩むどころではありません。
けれども、体験論的には、こういう雰囲気の食堂こそ、とても美味しく、楽しいひとときになる場合が多いです。
私のように、幸運にもサポートがあったので、口頭で告げられたメニューを80%くらい理解して注文するか、聞き返しても30%くらいしか理解が深まらない状態で、「ええい、ままよ」と、自分なりに料理を想像して注文するか、の違いです。どちらにせよ、出てくる料理は、好き嫌いを別にすれば、とっても美味しいのです。
3) 二皿食べて昇天
一皿目は、「トマトソースのタリアッテーレ」という、きしめん状のパスタを食べました。程よい堅さで、トマトソースがしつこくなくからんできて、つるつるっとお腹に入っていく感じです。
平たい麺も、太さや舌ざわりによって、めいめい呼び名があるのですが、私は、いまだに判別できません。いつか、料理本を見せてもらったとき、似たようなパスタでも、ぐっちゃりと別々の名前が振ってあったのを見て、「こりゃ、覚えきれないわ」と思ったくらいです。
友人は、クリームソースのラビオリを食べました。イタリア風の水ぎょうざ、と言ったら、怒られますでしょうか。
( トマトソースのタリアッテーレ )
( クリームソースのラビオリ )
二皿目は、パヴィア名物、「オリーブ風味の、あぶりうさぎ肉のポレンタ添え」を注文。友人は、「半分ずつシェアすれば二品味わえる」と言って、「鹿肉のきのこソース煮込み」を注文しました。両方ともに、1回くらいマダムの説明を受けただけは、正確に想像することが難しい料理です。
( あぶりうさぎ肉のポレンタ添え )
( 鹿肉のきのこソース煮込み )
素人が、料理の味わいを説明するのは、とても難しいです。
うさぎ肉は、オリーブの風味が効いているので、臭みもありません。食用に養殖された肉なので、すじもなく、あっさりした感じです。私はポレンタが好きですが、トーレ・デリ・アキーラのポレンタも、メイズ(とうもろこし)の甘味が、ほんのりと口の中に広がるやわらかい食感が、うさぎ肉とバランスしていて、とても感動しました。
一方の、鹿肉も、濃厚なきのこソースで十分煮込んだためでしょう、だしのような味わいが肉にしみ込んでいて、まろやかな食感です。肉も、すじまで柔らかくなるよう煮込まれています。
「いやあ、こんな美味しいイタリア料理食べたの久しぶり。うさぎや、鹿だの、普通の旅行者じゃ、手がでないからね。もう、思い残すことはありません!」
「うふふ」
「昔話で、ある食通の老婦人が、美味しい夕食のあと、『もうすぐお迎えが来そうだから、早くデザート持って来て!』と言って、デザートを食べたあと、幸せいっぱいの表情で、こと切れた、という物語がありましたが、私も、それと同じ気分です」
「つまり、英語でいう”Happy Die” 状態なのね」
「その通りです!」
「うん、わかった。じゃあ、デザートを頼みましょう」
となり、再度、おばあさんに声を掛けました。
4) 再び口頭メニュー
またまた、おばあさんの口から、5つくらい、今日のデザートが紹介されます。シャーベット、ティラミス・・・・・・、と残りは理解できません。しかし、最後の一品は、発音だけ分かりました。
「おばあさんのタルト!」
名前に惹かれて、即決で決めました。あとで説明を聞くと、いわゆるシンプルな外観と味の家庭風のタルトだそうで、おばあちゃん直伝のイメージから付いた名前だそうです。
( おばあさんのタルト )
頭の中で思っていたとおりの、シンプルで控えめな甘さの、どこか懐かしさを覚えるタルトでした。
蛇足ながら、もちろん、プロの手によるもので、テーブルの間を足しげく通うおばあさんの手料理ではありません。
お会計ですが、1人あたり25ユーロ程度でした。とても美味しかったラ・トーレ・デリ・アキーラに、心から笑顔でさようなら。
2018年8月記 了