コーケー遺跡のピラミッドは、写真で見るより、はるかに圧巻です。高さ35メートルの7段の建造物は、どっしりと重たい雰囲気を漂わせて私たちの眼前に鎮座していました。
「高いところへ行けば神に近づく」という気持ちは、人類共通の感情なのだと実感しました。
「それにしても、かなり崩れていますね」というのも、偽らざる感想です。
( コーケー遺跡のシンボル、ピラミッド正面を仰ぐ )
往時は、周辺に木造建築物がたくさん建っていたようですが、今では石造建築物のみが残っているだけです。現役時代のアンコール王朝の寺院の雰囲気を想像することは難しいです。
( ピラミッド背面の登頂口と木製階段 )
ピラミッド登頂口は裏にありました。観光用の木製階段がしっかりと取り付けられているので、よほどの人を除いて誰でも神々に近づく気分を味わえるのは良いことです。私たち一行も、一段ずつステップを踏みしめながら頂上を目指しました。正午近くで気温も30℃超でしたので、上に行くころには汗ばんでいました。
「わあ・・・、絶景かな」
頂上に着いて足場の安定した場所に進んで周囲を見渡すと、360度の密林風景が広がっていました。
( ピラミッド頂上風景。柵の内側は祭壇跡の深い穴 )
猛暑のなかにも微風があり、少し爽快になりました。
ピラミッド頂上の中央には、深い窪みがあり、神殿跡であるそうです。きっと、木製の祠があり、リンガが祀ってあったのでしょう。
「けれども、庶民は登頂できなかったのでしょうね」
「多分ね」
私たち一行は、思い思いの位置で写真を撮り合い、足元や遥か彼方のタイ国境方面の丘陵などを眺めて30分ばかりの時を過ごしました。
( ピラミッド頂上の崩れた石組み )
( ピラミッド頂上よりタイ国境方向遠望 )
近くに目をやると、わずかながら集落が見えました。
「あのあたりは、最後の最後まで政府に抵抗したクメール・ルージュ派の村でした。およそ20年前に和解して今では平穏に暮らしています」と、ガイドさんが解説してくれました。そう言えば、カンボジア北部一帯は、クメール・ルージュの最後の拠点だったという記事などを読んだことがあります。先ほど見学した「ニアン・クマウ」の真っ黒なススの跡を思い出し、長かった内戦の苦難の歴史が再び脳裏をよぎりました。
( コーケー遺跡近隣の、旧クメールルージュ派集落方向を望む )
帰路も、ゆっくりと階段を下りました。後から昇ってくる見学者とすれ違いさまにエールの交換です。
「上は、とっても眺めがいいよ」と、ガイドさんも声をかけていました。
( ピラミッド上から周辺の草地を見る )
少しゆっくりめにアンコールワットに滞在するだけで、こんな貴重な遺跡ツアーもできて満足です。
「駆け足観光で数を稼ぐのは卒業。ゆっくりめに味わい深い体験を重ねるか、半リゾート地でしばしの休息が初老の楽しみ。けれども、沈没してどこかの街の路地裏の安宿でぼおっとするのはやだな」というのが、今の心境です。
2020年4月記 了