彼女と見つめたい海ムンダカ:Mundaka

バスクの海は、どちらかというと、物憂げな表情をした海です。

緯度が北にあること、バスクを含むカンタブリアの海岸が北向きで、自分の前に影が出やすいことが理由のような気がします。 

地中海の明るいビーチが、屈託なく遊んだり、ナンパする海だとすれば、バスクの海は、二人で寄り添って、じっと見つめたい海です。

かつて訪れたムンダカの海は、オレンジの夕陽に照らされ、静かに水面を揺らしていました。磯に張り出した公園に、しばしたたずんで、波が打ち寄せる音を聞き、黒くなってゆく風景を見つめていました。


ベルメオMundaka港公園198607夕方のビスケー湾
( ムンダカ港付近よりカンタブリア海とイサロ島の夕暮れ 1986年 )

その海を、再び見つめるために、ムンダカに向かいました。

ゲルニカから電車で約20分、北へ向かって走ります。

ウスコトレン:Euskotren の電車は、ゲルニカをあとにすると、ウルダイバイ自然保護区: Urdaibaiとなっている湿地帯の西側を延々と走ります。湿地の彼方には、木々に覆われたバスクの丘陵が続いています。小雨模様ですが、緑がいっそう濃く映え、日本の田園風景と重なります。

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( ゲルニカ郊外の車窓風景 )

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( ウルダイバイの湿原を間近に見ながら走る )

電車は、一駅ごとに海に近づき、小さな入り江やヨットハーバーが目に入るようになります。

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( ウルダイバイの河口付近。エスチュアリーと呼ばれる地形 )

ムンダカ:Mundaka 駅到着です。数人のお客をパラパラと下ろした青い電車は、ガッタンと音をたてながら去っていきました。

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( ムンダカ駅プラットホーム。電車はベルメオ行きの下り )

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( ムンダカ駅舎。集落の西はずれにある )

ムンダカの集落は、他にも増して静寂が支配的です。観光客はほとんどいません。小ぎれいなバスク風出窓が目立つマンション街や、旧役場、いまやヨットが主人公となった港を見ながら、海辺の公園まで歩いてきました。

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( 昼下がりのムンダカの目抜き通りと、ビスカイバス )

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( ムンダカ港近くの広場と、バスク風マンション )

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( ムンダカ港と、イサロ島遠望 )

港と隣り合わせの公園に、久しぶりに立つことができました。
海と山と川の風景を、ひとつひとつ視野に入れていきます。

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( ムンダカ港公園と、木立の背後の集落風景 )

ムンダカ港の防波堤の先には、イサロ島:Izaro が横たわっています。

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( ムンダカ港公園よりイサロ島遠望 )

低い雲がおちてきそうな2017年のイサロ島風景ですが、波は、あくまで穏やか。バスクの海と向き合う感慨にひたります。

” ムンダカの、雲をささえるイサロ島 ”

ベルメオMundaka港公園198607夕方のビスケー湾
( 茜色に染まったイサロ島風景を思い出す )


視線を、河口の対岸に移します。

三角江と訳されるエスチュアリーと、ゆるやかな山々の風景はいつまでも変わりません。ちらりと、バスク地方特有の灰色の石灰岩むき出しの山肌がのぞいています。天気により、霧にむせび、あるいは、秋の夕陽にオレンジ色もあざやかに輝きます。

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( ムンダカ港より、東の海岸線と石灰岩質の山を遠望 )

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( エスチュアリー対岸の奥を見る )

ベルメオ198607ムンダカ港公園より上流を見る
( オレンジ色に染まるムンダカ付近のエスチュアリー 1986年 )

エスチュアリーの奥の方にも目をこらします。ゲルニカ付近の山々は、あくまでも優しく、そして青く鎮座しています。

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( 雲が低いので、ゲルニカあたりは霞んでいる )

198709ムンダカからウルダイバイ方向の夕方
( 夕暮れが美しいムンダカのエスチュアリーとゲルニカ方面 1986年 )

なんか、室生犀星の一文を思い出してしまいます。

「ふるさとは、遠きにありて、思ふもの。 そして、悲しくうたふもの 」

実際は、ふるさとでも出生地でもありません。バスクに来て喜んでいます。それでも、何か帰ってきたような気分になり、また、去らねばならないと思うのでしょう。これが、私のバスクの風景です。

三度目は、やっぱり晴れの日に来たいものです。


                                       2017/9月訪問。2018/2記   了