ビルバオの歓び

その4 ビルバオ・ルネサンス


1) ビルバオ中心部歩き

どうして、わざわざ街歩きなどをするのでしょう。

いまでは、グーグルマップなどを使えば、居ながらにして名所旧跡から住宅街まで眺めることができます。単に、外観や名前を知りたいだけならば、それで十分です。由来を知りたければ、専門書やネット記事を孫引きすればいいのです。だからこそ、お金と時間をかけて、実地体験をするときは、街の香り、道行く人たちとの瞬時の交流が、いままで以上に貴重な体験となると感じています。
その体験を、自身の心にしみ込ませ、同時に、多くの方にも伝えることができれば、と思います。

ビルバオの中心部には、面白い建物やオブジェが散らばっています。最近20年間の都市再生プロジェクトが成功し、都心部もみちがえるようになりました。磨きがかかって輝くような建物も多くなりました。適当に歩いていても、ビルバオの力強さや未来を信じる明るさにぶつかります。わずかな例外を除けば、治安は日本と同じように良いです。
ゆるやかな坂道に沿って歩いているうちに、ビルバオの街並みが、心の中に溶け込んできました。

私は、中心部を西から東にかけて歩いて横断します。



サン・マメスのバスターミナル付近からインダウチュ地区をとおり、アバンド地区の中心モユア広場を横切り、グランヴィアに出て国鉄アバンド駅あたりまで行きます。ずんずん歩けば1時間くらいの距離ですが、カフェやバルに入ったり、品の良いお店に入ったりして、自分なりに2017年のビルバオ体験をしたいものです。

( San Mame*s ---    Indautxu  ---   Plaza  Moyua  ---  Gran Vi*a  ---  Estacio*n de Abando, RENFE )
 (*: アクセント記号がある字)

2)サン・マメスとUPV

ビルバオに高速バスで来る人が最初に降り立つのが、サン・マメス:San Mames のバスターミナルです。空港バスの起終点でもあります。メトロ、RENFEおよびトランヴィアのサン・マメス駅と地下通路を介してつながっている公共交通機関の一大ターミナルです。

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( サン・マメスのバス・ターミナル。まだ、一部工事中。2017年9月 )

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( メトロとRENFEのサン・マメス駅入口 )

バス・ターミナルから地下道伝いに各線の駅に行けますが、トランヴィアの駅だけは地上に出なければなりません。

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( トランヴィアのサン・マメス駅とバスク州立大学工学部校舎 )

線路をまたいでいるガラスの建物は、バスク州立大学工学部校舎です。
白い看板に、UPV、EHU の文字が書いてあります。
UPVは、スペイン語の ”Universidad del Pai*s Vasco ”の略です。  EHUは、ウスケラの ” Euskal Herriko Unibertsitatea  ”の略です。バスク州立大学は、大規模な総合大学です。ビルバオを中心に、ドノスティアやビトリア・ガステイスにもキャンパスを有しています。

工学部をくぐった先は、高速道路に直結する大きな交差点です。郊外にある大学本部までの直行バスが、昼間20分おきに出ています。およそ20分かかります。

バスク州立大学の様子は、観光案内では絶対に登場しないので、寄り道して紹介したくなります。

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 ( UPV:バスク州立大学本部付近。前方は医学部、右隅は管理棟 )

198709Euskadi大学内バス発着場所
( 1987年頃の、ほぼ同じ場所。建物は20世紀スタイル )

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 ( バスク州立大学構内。左は管理棟、右は生協、学食など、奥は文系の学部棟 )

こういう場所にシニアがやって来て、若い男女がにこにこしているのを見ると、我が子の成長した姿に重なって微笑ましい気持ちになります。「このクソじじい」、と思っているヤツも街中にはいそうですが、大学では稀でしょう。

3) eitbとスタジアム

再びサン・マメスに帰ります。大学発の直行バスを降りた場所にそびえるガラス張の青黒い曲面ビルは、eitb:バスクテレビ本社です。石造りの玄関左に、eitbのロゴがあります。

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 ( eitb:バスクテレビ本社 )

玄関上に並んだ顔写真は、人気ドラマの出演者たちです。若いカップルと親子間のごたごたや家族愛がテーマだと聞きました。どこかの国の、「渡る世間は鬼ばかり」みたいな感じの番組です。

バスクテレビでは、ウスケラとスペイン語のチャンネルが、1つか2つずつあります。話に聞いたところによりますと、日本のアニメもときどきやっているとか。ドラえもんも、こちらではウスケラをしゃべっていたようです。
「すごいぞ、ドラえもん!。バスクの子供たちの心をワシづかみにしてくれ!」です。

eitbのそばにあるのが、白くて巨大なドーナツ状の建物のサン・マメス・スタジアム。名門サッカーチーム、アスレチック・ビルバオ:Athletic Bilbao の本拠地です。

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( サン・マメス・スタジアム。地上階の左の赤枠が公式グッズショップ入口)

サッカーファンの旅行記を読みますと、はるばるやって来る日本人も少なからずいるようです。ビルバオを応援しに来るのでしょうか、それともアウェイのチームにくっついて来るのでしょうか。いずれにしても、試合の前後には、街歩きとピンチョスなどを存分に楽しむよう祈っています。

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( スタジアム内の公式グッズショップ )

公式グッズの店は、市内に数店舗があり、中心部では、アラメダ・レカルデ44番地:Alameda Rekalde 44、 にあります。時間の押している方で、実物を手に取ってショッピングを楽しみたい方は、ここが一番便利です。

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( アラメダ・レカルデ44番地の公式グッズショップ )


4) メトロのガラスドームに驚く

サン・マメス・スタジアムを背にして、モユア広場へ向けて東へ歩みます。
トランヴィアの走っている大通りは、サビーノ・アラナ大路:Avenida Sabino Arana。晴れの日は、そよそよと風に揺れる木々と、道の向こうに顔を出している緑の丘陵が、すがすがしい雰囲気を作り出しています。とても近代的な街路です。こういうところも好きです。

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( サビーノ・アラナ大路 )

大路の突当りに横向きに建っているのは、マリア像です。まわりは、大きな周回式交差点、 スペイン語でいうロトンダ:Rotonda になっています。サグラド・コラソン広場:Plaza Sagrado Corazon、で、意訳すると”聖心広場”です。

サビーノ・アラナ大路を東に折れてウルキホ大通りに入ります。ふと、交差する通りに目をやると、かの有名なガラスドーム・デザインの地下鉄入口が見えました。イギリス人建築家ノーマン・フォスター:Norman Foster が全体デザインを手がけたメトロビルバオの駅出入口です。

「わおー、すごーい。これが、うわさのビルバオ地下鉄の出入口かあ」

初めて、これを目にすると、明るく叫びたくなるような感動を覚えます。誰かも言っているとおり、ガラスでできた芋虫です。

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( メトロのインダウチュ駅西口 )

私は、東京の日暮里に似たようなガラス製地下出入口があるのを思い出し、つい比較してしまいました。
ビルバオのガラス芋虫の方が、異質すぎるくらいのデザインと、ピカピカに磨かれたメンテの良さで、断然際立っています。陽光を浴びて、自信たっぷりに輝いています。これが、伸び盛りのビルバオを象徴するものの一つなんだな、と実感せざるを得ません。

「世界のトーキョー、もうちょっと思い切りよく飛躍しようよ」と、内心、叫びたくなりました。

1274日暮里駅いもむし型出入り口
( 東京の日暮里駅前の地下駐輪場出入口。かなり、くすんでいて、似て非なるものみたい )

次第にお洒落なお店や、バルが増えてくると、インダウチュ広場です。ここの地下鉄出入口は、地下駐車場への入口を転用したので、ガラス芋虫タイプではありません。

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 ( メトロのインダウチュ駅東口と、インダウチュ広場 )


5) 古き器に新しいカルチャー

広場を過ぎると、レンガ造りの大きな建物が現れます。

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( アスクーナ・セントロア南面 )

アスクーナ・セントロア:Azkuna Zentroa、別名アロンディガ:Alho*ndiga です。昔の穀物取引所兼ワイン倉庫を改造して、市民カルチャーセンターにしました。外観は、20世紀初頭の竣工当時の姿を保存していますが、内部は総入れ替え、屋上にテラスも追加しました。ヨーロッパには、こういう建物がけっこう多いです。

中に入り、ビルバオ市の心意気を見てみましょう。
大きなピロティの脇の2階から4階は、市立図書館と温水プール、映画館になっています。温水プールの底がガラスになっている部分があるので、上を見上げると、泳いでいる人がゆらゆら動いているのが見えます。
5階屋上は、現代風インテリアのオープンカフェとレストラン。カフェ人気がすざまじく、たくさんのカップルやグループがおしゃべりしながら午後のひとときを過ごしています。

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( アスクーナ・セントロア1階ピロティ。赤い照明は、実際はミラーボール状 )

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( アスクーナ・セントロア5階屋上カフェからの市街展望 )

このあたりから、観光客も思わず足を止める超ユニークデザインのビルが、あちらこちらに顔を出します。


6) ガラスと鏡のビルに唖然

アスクーナ・セントロアを出たところの広場に面して、長ーいカーブを描いているガラスのビルがあります。
バスク州政府合同庁舎で、公団公社のようなオフィスが、いくつも入っています。

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( アスクーナ・セントロアとバスク州政府合同庁舎 )

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( 西日を浴びて輝くバスク州政府合同庁舎 )

このビルの左を周りこんでモユア広場の方へ100メートルほど進むと、キラキラとした、異様としか言いようのない建築物が目に飛び込んできます。鏡張りの角砂糖を積み重ねたようなデザインです。
「何なんだ、これは・・・・」
「バスク州保健局ビルです」
「・・・・・・・・・」
「見るだけで、十分ですね。ここに転勤しても給料同じだし」


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( バスク州保健局ビル )

21世紀スタイルの文化商業都市を目指すならば、行政側も、これくらいやる覚悟が必要ですよ、という見本のようなビルです。これだから、最近のビルバオは人気が上がる一方なのだと思います。

観光客は、しばし唖然と見ていますが、市民たちは何事もなかった顔をして通り過ぎていきます。
近くには、ガラス張りに近いビルが、いくつか目に入りますが、もう何も感じません。ちょっとくらい奇抜な外観のビルを建てても、不感症になっているので、「あっ、そう」で終わりです。


7) ビルバオのへそ、モユア広場

どんどん進んで、ビルバオ都心部のヘソであるモユア広場:Plaza Moyua に到着です。

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( ビルバオ都心部のへそ、モユア広場。正面はチャバリ宮ビル )
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( 1986年のモユア広場。 ビルそのものは、ほとんど同じ )

楕円形の大きな広場です。内側は公園。広場を取り巻くように、高級ホテル、銀行、官庁などが立ち並んでいます。王宮か大貴族の館のように見えるビルは、チャバリ宮:Palacio Chavarri  です。20世紀初めのビルで、いまは、スペイン軍関係の政府庁舎です。入れません。

「壁がきれいになって、華やかさは増したものの、30年前とおんなじ感じだなあ」と、感慨ひとしおです。

モユア広場には、地下鉄の入口が数カ所あり、どれもガラス芋虫スタイルなので、”これぞ、現代版ビルバオ”、という光景が広がります。観光に来た甲斐がある場所です。
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( モユア広場東側の地下鉄出入口 )

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( ガラスドーム型のメトロ出入口を見上げた光景 )

モユア広場を貫通して東西に走っているのが、グランヴィア:Gran Vi*a というビルバオ都心部の目抜き通りです。格式の高い雰囲気を持ったビルが並んでいます。大きな街路樹が並んでいるので、森の散歩道みたいな場面もあります。
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( グランヴィアの並木。 銀色の壁はエル・コルテ・イングレス・デパート )

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( ビスカヤ県庁旧庁舎。奥の海老茶色が入った建物がBBVAタワー )

さきほど目にしたチャバリ宮と雰囲気が似たビルが見えてきます。ビスカヤ県の旧庁舎です。いまは、儀式用に使われているだけですが、20世紀初頭の街の繁栄ぶりをアピールしているかのような、重厚で凝った造りです。

さらに並木を歩くと、右手にステンレス壁のデパート、エル・コルテ・イングレス:El Corte Ingre*s の建物が見えてきます。
外観は、ずうっと同じだったようです。変わらないビルバオに出会って、何だかほっとしました。
教会前の道は、先ほど通ってきたウルキホ大通り:Arameda Urquijo  の続きです。おしゃれな店が並んでいます。お土産屋さんはありませんが、品のよいブティックや食料品店、バルなどがあります。ビルバオで一番、優雅に買い物できる地区のひとつです。
私も、この一帯でお買い物をします。


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( エル・コルテ・イングレス・デパート。建物外観は30年変わらず )

198709ビルバオエルコルテイングレスとウスケラ地名改称後標識
( エル・コルテ・イングレス・デパート、1986年。奥の教会の塔があった頃 )

グランヴィアの東の終端は、オベリスクが建っている丸い小さな広場です。ピリビラ広場:Plaza Biribila。スペイン語名は、シルクーラ広場 Plaza Circular  です。旧名は、エスパーニャ広場でした。ご想像のとおり、マドリードにちなむ名前は、公の場では好かれていないようです。

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( ビリビラ広場のいま 2017年9月 )

198609ビルバオアバンドのPlazaビルビラ広場
( 1987年当時はエスパーニャ広場。あまり変わらず )

このあたりは、銀行や保険会社が軒を連ねています。昔の写真に写っていた、BCの看板が見えるバンコ・セントラルは、スペイン中央部あたりが本拠の会社でしたが、とうの昔に事実上つぶれました。建物はそのままですが、いまは、他の会社の事務所です。

広場の反対側にわたって南の方を向きました。BBVAタワーとアバンド駅が並んで見えます。
BBVAは、現在、スペイン最大最強の銀行です。この本店タワーは、1980年代から変わらない姿で、そびえています。ビルバオ経済、バスク経済の底力を感じます。

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( ランドマークのひとつBBVAタワー。手前はメトロのアバンド駅出入口)

BBVAタワーの向かいにあるスペイン国鉄レンフェ:RENFE のアバンド駅も重厚な建物です。ゆるやかな坂の斜面にある、長距離列車用に作られた大きな駅で1番線から8番線まであります。2017年9月現在、リニューアル工事中で、駅舎全体にネットがかかっていました。

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( ビリビラ広場から国鉄アバンド駅(補修中)とBBVAタワーを見る )

198709ビルバオアバンド駅舎
( RENFEアバンド駅舎。1987年 )

この駅も、いつの間にか改称されて、アバンド・インダレチオ・プリエト駅:Estacio*n Abando Indalecio  Prietoと言います。正直、長い名前は覚えづらいです。

ビリビラ広場のアバンド駅寄りのビルの1階には観光案内所がありますので、このあたりを歩いた方は多いと思います。日本人だと、旅先で、何となく駅にすり寄る傾向もありますね。私もです。

ここで一区切り。近くのバルに足を向けて一休みします。


  その4  了