ラグーザとカオス・シチリア物語    2018年9月訪問

私がシチリア島へ行きたいなと思ったきっかけは、映画「カオス・シチリア物語」に出てきた風景に感化されたからです。

カオスシチリア物語DVD
( 映画「カオス・シチリア物語」 )

この映画は1984年の作品です。監督はタヴィアーニ兄弟という方々。原作は、劇作家のルイジ・ピランデッロ(1867-1936)というイタリア人で、ノーベル文学賞も受けた文豪だそうです。自分の故郷、シチリア島のカオス村で見聞きした話を書いた作品がもとです。映画では、そのなかから4話をオムニバス形式で取り出し、前後に序章と終章をつけて合計6話の作品にしています。約3時間の長い作品ですので、じっくり、ゆっくり見るに限ります。

6話中、ラグーザ・イブラのドゥオーモが登場するのは、4番目の「かめ:甕」と終章です。馬車で街を通るときの背景として登場するほか、まどろむようなシチリアの街を俯瞰する場面でも、遠くからラグーザ・イブラを映した風景が出てきます。
カオスS物語ラグーザ かめ
( カオス・シチリア物語に登場したラグーザ・イブラのドゥオーモ )

私は、ドゥオーモの場面に、とても関心を惹かれました。真っ青な空と、濃い緑色をしたヤシの並木道の奥に威風堂々と鎮座する美しい教会の姿が脳裏に焼き付きました。ヨーロッパ風ではない俗と聖の不思議な組み合わせに惹かれました。

今から思い返すと、人生の喜怒哀楽や思うがままにならない日常生活と関係なく、富を吸い取ってたたずむ聖の姿を悲しげに対比させようとしていたのかも知れません。単に、シチリアの典型的な街中風景を見せようとしていた以上の雰囲気があるのは事実です。

そのため、今回のシチリア旅行では、イの一番にラグーザ・イブラのドゥオーモの姿を見に行こうと決めていました。

実際にドゥオーモの夕方近くの逆光姿を眼にしたときの感動は、言い尽くせないほどでした。
「これが、あの超然とした教会の実物かあ」と、5分くらいドゥオーモ広場に立って眺めていました。

ラグーザイブラドゥオ逆行
(  初めて見たときは逆光のラグーザ・イブラのドゥオーモ )

ラグーザは、いまや世界遺産の観光地です。ドゥオーモは、その主役のひとつなので、周囲の建物ともども美しく手入れされていました。まさに「見せたいように整えた観光名所」、「見たいと思っていた光景が展開する観光スポット」そのものでした。

ただ、惜しむらくは映画の時には生えていたヤシの並木が、ばっさりと抜かれていたことでした。跡地に背丈の低いソテツがしょぼしょぼと植えられて、少しがっかり。きっと、ヤシの大木があるとドゥオーモが見えないじゃないか、ということで抜かれたような感じを受けました。私にとっては、あのヤシの木こそ、生活実感から浮いたドゥオーモの姿をひょうひょうと示してくれる存在だったのにです。

カオス・シチリア物語は、そんなに、はやった映画ではなかったので、市当局にとっては、映画の一場面より、世界遺産目当てでやってくる大多数の観光客の視線こそ重要でしょう。

googlemapのストリート・ビューのおかげで、ヤシ並木がなくなっていることは分かっていたとはいえ、実際に来てみると、寂しいものでした。

この映画では、そのほかの有名観光地としてリパリ島も登場します。シチリア島旅行に興味がある方は、他の映画やTVドラマといっしょに、ぜひ、「カオス・シチリア物語」も入手したり、オンデマンドでご覧ください。あんまり売っていないし、DVDは高いので、なかなか手が出ないのが玉に傷でしょう。

2020年9月記                           了