尊敬を持ってねトゥームレイダーさん      2019年10月訪問

タプローム遺跡は、「トゥーム・レイダー」という人気映画のロケ地のひとつであると、多くの方々がブログで紹介しています。

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( 「トゥーム・レイダーのDVDカバー )

「トゥーム・レイダー」は、2001年のアメリカ映画で、主演は超有名なアンジェリーナ・ジョリーさん。ストーリーは、英国の富裕貴族の令嬢にして古代宝物探索家の主人公ララさまが、悪役の考古学者たちと闘いながら5000年前に行方不明になった”時間をコントロールできる仕掛け”を探し当て、正義の信念のもとに破壊するという内容です。最新鋭のIT技術と武器を手に、武闘派の美女が派手なアクションで悪役と銃撃戦を生き延びる場面が連続するアメリカンな娯楽映画です。

宝探しの舞台は、イギリスから始まり、アンコールワット、ベネチア、シベリアなどが出てきます。

そのうちのひとつが、クメール遺跡として紹介されたアンコールワット遺跡群のうちのタプローム遺跡。写真の場面のように、巨大石造物にとぐろを巻くように根を生やした木が特徴のタプローム遺跡が、古代の忘れられたモニュメントとして神秘的なイメージで映し出されています。

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( タプローム寺院の中を動くアンジェリーナ・ジョリー(右上) )
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( トゥームレイダーの場面と同じく木の根にからまれた石造建築物 )
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( 主人公ララさまも、崩れた石積みの中を歩き回る )

それだけ、遺跡上に木々の根がはびこる様子は、私たちの想像を超えたイメージをかき立てることは間違いありません。打ち捨てられた建物内や空洞に、人知を超えた何かが潜んでいそうな不気味さを感じることも確かでしょう。

しかし、このトゥームレイダー:Tomb Raider、日本語に直訳すれば「墓荒し」、よく言って「古代墓所探査家」。目的の宝物さえ見つけられるのならば、文化財を破壊したり、異教の神の像を銃撃することなど何とも思っていないようです。

私も、他の皆様のブログで、この映画のことを知りましたが、タプロームやアンコールワットの登場した場面を見て、とても悲しくなりました。

いくら娯楽映画とはいえ、心の奥に潜む「あいつらは、ちょろいからな」的な思考が見え隠れしていたからです。

「もっと、宗教そのものに対する尊敬の念を持って接しなさい!」

「他文化を、自分たちの文化と同等に認め合う謙虚さを忘れてはいけません!」

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( 敵方も、クメールの神の像を破壊して宝の隠し場所に潜入 )
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( 神の像が暴れ出したので逃げる主人公ララ。次の場面では、寺院遺跡内にもかかわらず銃を乱射して撃退 )

「英米人の皆さん、宝が内部にあるからという理由で、パルテノン神殿の柱やエレクティオンの少女像を、忍法で折ったり、ぱっくり割った冒険映画を作ってもお互い様なのですね」

「『正義の主人公が、パリのノートルダム寺院の主祭壇を重機でつぶして、地下の隠し部屋を発見し、古文書を引っ張りだしたら、周囲のキリスト教の聖人像が突如、襲い掛かってきたので機関銃を乱射して、全部、木っ端みじんに吹っ飛ばして、無事、京都の屋敷に帰還』、というストーリーでも、娯楽映画ならば、宗教団体その他からのクレームはなしということですね」

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( 貧しいながらも長閑なアジアの寺院と村人たちという感じの描写 )

「西暦3001年のローマは地球温暖化で砂漠となり、バチカンらしき遺構が残る廃墟で、ボロをまとった純朴そうな表情の村人が数人、祭壇の裏で午後の暑さをしのぐため、のんびり昼寝でも、文句なしですよ」

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( 世界最高峰の宗教建築の一つとして優美な姿を見せるアンコールワット )

少しづつ、私たちは、お互いの文化を尊敬し合うという気持ちになっていることは、間違いないと思います。けれども、ときには、尊敬し合うという気持ちが一歩も二歩も後退してしまい、自国以外の文化を気軽に娯楽の対象にしてはいませんか?

日本人が作った娯楽映画で、ゴジラが皇居を踏み潰すのは、議論百出ながらも「あり」だと思います。けれども、アメリカ人が作った娯楽映画で、代表的なシーンが、スーパーマンが敵を倒すために伏見稲荷の鳥居を将棋倒しのように倒すのは「なし」だと思います。けれども、ホワイトハウスに立てこもった敵を全滅させるために核を一発お見舞いする場面ならば「あり」でしょう。

アンコールワットの旅から帰国して、噂に聞いた「トゥームレイダー」という映画を、DVDで初めて鑑賞した私の感想です。

2020年1月記                           了