滅びの美アンコールワット        2019年10月訪問

アンコールワットは、とてつもなく壮大で精巧、そして幻想的ですが、いかんせん、過去のものであることは間違いありません。

15世紀以降も寺院としての命脈を細々と保ち続けてきたことは不幸中の幸いでした。周辺の他の遺跡に比べて破損や崩落、石組みのずれが少ないです。けれども、2回、3回とアンコールワットに入るにつれ、痛々しい場面が視野に入いるようになりました。
0655Aワット外周と廊下内1022 (4)
( 正面と塔の頂上が崩落した西の塔門 )

しっかりと作ってあったので、荒れるがままでも、よくぞ20世紀まで持ちこたえたと言うべきでしょう。王朝時代に財力をつぎ込んで造営しただけに、メンテコストはかかる、坊主どもは贅沢三昧、細工職人は無尽蔵に必要だったはずです。

また、アンコールワットは、寺院としての息吹きがほとんど感じられません。強欲坊主も考え物ですが、あまりにがらんどうなのも寂しいものです。ここが、過去のものであることを、ひしひしと感じました。

人類のたぐいまれなる叡知も、自然の摂理の中で、静かに最後の日々に向かって時を刻んでいました。あきらめと無念の思いで眺めるからこそ、アンコールワットは美しいのでしょう。

主塔に向かう参道の両脇の石の欄干も、かなり破損しています。ところどころに鉄筋が露出していて、数十年前のずさんな修復工事の跡も見えました。応急措置とはいえ、興ざめでした。

0657Aワット正面全景昼頃1022 (6)
( 崩れてなくなった参道両脇の石の欄干 )

十字回廊一帯の屋根も、よく見ると、あちらこちらで剥がれています。ぱっと見では、気づかない程度でしょうが、確実にに経年劣化は進んでいます。このくらいの修復でも、きっと、かなりの予算と期間が要るのでしょう。

0661Aワット第2回廊ざっと1022 (2)
( 屋根のところどころが剥がれた十字回廊一帯 )

第1回廊と第2回廊の間の緑地に建つ、経蔵と言われている建物も、かなり崩落が進んでいます。石の表面も、ごげ茶色に変色していて痛々しい感じです。見せ場のひとつではないので、当面は放置するしかないようです。
0755Aワット午後第2回廊奥の主塔1025 (3)
( 崩落の進む経蔵らしき建物 )

アンコールワット観光のハイライト、第3回廊や主塔も、ぱっと見こそ威風堂々で優雅な曲線美を見せていますが、基礎部分はかなり崩れていました。崩落した石材が、あちこちに無造作に積み重ねられています。

第3回廊へ昇る急階段の足乗せ部の大半は崩れて無くなっていました。十数年前までは、この状態の階段を観光客も上下したとのこと。まさに、恐怖の階段だったようですが、その恐怖に打ち克って上がれたときの感動も、さぞかし大きかったような気がします。暑さと、冷や汗で、全身汗だくだったのではないでしょうか。

0667Aワット第2回廊から見上げ1022 (5)
0765第3回廊への急階段その3
( 第3回廊周りの崩落した石材と、欠落著しい急階段 )

でも、どういう理由で、急階段の足乗せも欠けていくのでしょう。あまり、張り出しもないので欠けにくいような気がするのですが、委細は分かりません。
0663Aワット第3回廊全体風景1022 (2)
( 主塔の基礎部も崩落の危険性大の様子 )

アンコールワットの中心である主塔も、よく見ると、ところどころで石材が剥がれていました。石の隙間から雑草が顔をのぞかせている場所もありました。このままですと、確実に隙間は広がり、水が入って割れやすくなるでしょう。わかっていても、簡単に、雑草を引き抜いたりできないようです。

とても痛々しい場面が多かったですが、それでもなお、アンコールワットは美しく気高い姿を保ち続けています。気長に修復に取り組み、いつまでも世界中の人々を惹きつけて止まないことを願っています。

「あまり、入場料も上げてほしくありません。値上げしても維持修復費に全額は回らずに、上の方のポケットへ入る部分が何割か発生するだけでしょうから・・・・・・・」


2020年1月記                               了