やまぶきシニアトラベラー

気まぐれシニア・トラベラーの旅。あの日から、いつか来る日まで、かつ、めぐりて、かつ、とどまる旅をします。

夕日も見ようプノン・バケンの丘で

夕日も見ようプノン・バケンの丘で     2019年10月訪問

アンコールワットの日の出を見るならば、やっぱり夕日も見たいです。

平凡な観光客にとり、人気スポットで世界中の人たちと感動を分かち合いながら見物する方が満足度が高いことは言うまでもありません。

私も夕日が美しいことで人気のあるプノン・バケン:Phnom Bakheng Temple  の丘に登ることができました。この丘は、300人の定員制なので、運良く定員の内数に入いることができたということです。日没の約45分前に展望台の入口に到着、団体でうるさいと不評の中国人不在という幸運に恵まれた結果です。

0193プノンバケンの夕陽輝く (11)
( 雲間に沈みゆくプノンバケンの夕日。アンコールワットは左に見え隠れする )

アンコールワット観光の夕日鑑賞スポットは、最近では、いちおう2カ所あります。

本命は、アンコールワットの塔が見え隠れするプノン・バケン寺院遺跡の頂上です。先着順の定員300名ですので中国人の団体が押し寄せた場合はアウトという条件付きです。噂によると、彼らの一部は3時すぎからやってきて、係員の制止などかまわずに小宴会をしながら夕暮れを待つということでした。こういう日に当たってしまっては、私たち一般人は、到底かないません。

その代替地として、確実に展望地点に上がれるということで客が付き始めたのがプレ・ループ:Pre Rup Temple という遺跡です。こちらは、場所も広いので定員無制限ですが、プノン・バケンより遠く、アンコールワットが見えないというハンディがあり、総合評価ではプノン・バケンに比べてかなり落ちます。ツアーですと、名称は同じ夕日鑑賞でも、こちらに連れていかれる場合が多いようですので、皆さんも気にした方がよいと思います。

念のため申し添えますが、天候不順で夕日が見られないリスクは両地点とも同じです。

「何、そんなにびくつかず、日没の40-50分前にプノンバケンの入口に着く程度の準備で、大方、大丈夫ですよ」
「観光中に、団体の中国人をわんさか見たら、1時間半くらい前に行ってみて様子を見ればいいじゃないですか」

0071夕陽のプノンバケン標識
( プノン・バケン遺跡の登り口と標識 )

このくらいの楽な気分で、プノン・バケンに登ればいいのです。観光客100%丸出しで夕日見物も良いではないですか。
0192プノンバケン登り道 (3)
( プノンバケンへの道は未舗装だが勾配は緩い )

夕方4時50分に、私はプノンバケンの入場口をとおり、約15分かかって海抜67mの丘の頂きにたどり着きました。高温多湿なので、ゆっくり歩いても汗ばみます。10月下旬の日没は午後5時40分ごろです。

0073プノンバケン寺院下より全体
0074プノンバケン夕暮れ時の寺院
( 遺跡の基礎部分からプノンバケンの展望スポットを仰ぐ )

プノン・バケンは、9世紀ごろのヒンドゥー寺院遺跡らしく、現在、修復工事が行なわれていますが、観光客の関心は専ら夕日鑑賞です。寺院の最上段へ上がる階段下には、入場整理券を受け取る列ができていました。
0191プノンバケンテラス入場証 (2)
( プノン・バケンの夕日鑑賞展望台用の入場整理券 )

数人いる係員のおじさんは、のんびりムード。にやにやしながら不安そうな観光客を見回して「あと10分待ってね」と言って、ほんの小さな優越感に浸っています。

出口担当の係員が、写真のようなプラスチック製の入場整理券を運んでくると、おじさんは、ゆっくりと1枚ずつ、列に並ぶ者たちを通しながら配ります。急階段があるので、見物人が殺到しないように調整している感じです。

0192プノンバケン夕暮れ時の風景 (2)
( プノン・バケンの展望台に上がる階段 )

手のひらを広げて「チップ」などをせびらないだけヨシとしましょう。カンボジアは現在は決して豊かとは言えないですが、こういう点は、おねだり文化ではないのです。栄耀栄華を一度は極めた民族の誇りのように感じました。

0193プノンバケンの夕陽輝く (5)
( プノン・バケン展望台で夕暮れを待つ観光客 )

はやる気持ちを抑えて展望台に上がると、そこそこの人出。欧米系あり、アジア系ありですが、皆んな個人客や数人のグループ客でした。声高に叫ぶ団体客もいません。ひそひそ話をしつつも、うきうきと夕日が雲間から姿を現わす瞬間を待っているという感じでした。

お互いの思いは同じなので、適当に声を掛けあって最前列に出してもらって記念撮影もできます。テラスの東面に行くと、大勢の見物人の肩越しにアンコールワットの尖塔がちらりと見えましたが、写真は撮れませんでした。さすがにベストポイントは超人気です。
0078プノンバケン夕暮れ時人混み
( プノン・バケンの特等席は西向きのテラス )

私の訪れた日は、薄雲がかかっていたので、西の空に夕日が顔を出すかどうか、ちょっぴり不安でした。けれども、日没20分くらい前になったら、雲の切れ目から、濃いオレンジ色に染まった夕日が、くっきりと姿を現わしました。小さなどよめきの声とともに、見物人がいっせいにカメラのシャッターを切る音が響きました。

0193プノンバケンの夕陽輝く (3)
0079プノンバケンの夕陽丸々沈みゆく
0080プノンバケンの夕陽輝く沈み込み
( プノン・バケンの丘から沈みゆく夕日を見る )

夕日を眺めるためだけに見る太陽は、ほんとにきれいです。黒ずんできた森の彼方に沈むオレンジ色の夕日は、普段より神々しく感じました。

「有名な観光スポットで、人並みに楽しい体験ができて良かったです」
「世界中の人たちといっしょに夕日が見られて、アンコールワット人気の高さを実感できました」

2020年1月記                                    了












尊敬を持ってねトゥームレイダーさん

尊敬を持ってねトゥームレイダーさん      2019年10月訪問

タプローム遺跡は、「トゥーム・レイダー」という人気映画のロケ地のひとつであると、多くの方々がブログで紹介しています。

TombR Y2002
( 「トゥーム・レイダーのDVDカバー )

「トゥーム・レイダー」は、2001年のアメリカ映画で、主演は超有名なアンジェリーナ・ジョリーさん。ストーリーは、英国の富裕貴族の令嬢にして古代宝物探索家の主人公ララさまが、悪役の考古学者たちと闘いながら5000年前に行方不明になった”時間をコントロールできる仕掛け”を探し当て、正義の信念のもとに破壊するという内容です。最新鋭のIT技術と武器を手に、武闘派の美女が派手なアクションで悪役と銃撃戦を生き延びる場面が連続するアメリカンな娯楽映画です。

宝探しの舞台は、イギリスから始まり、アンコールワット、ベネチア、シベリアなどが出てきます。

そのうちのひとつが、クメール遺跡として紹介されたアンコールワット遺跡群のうちのタプローム遺跡。写真の場面のように、巨大石造物にとぐろを巻くように根を生やした木が特徴のタプローム遺跡が、古代の忘れられたモニュメントとして神秘的なイメージで映し出されています。

TombRaidarSample (4)
( タプローム寺院の中を動くアンジェリーナ・ジョリー(右上) )
0423タプローム内部 (5)
( トゥームレイダーの場面と同じく木の根にからまれた石造建築物 )
0423タプローム内部 (9)
( 主人公ララさまも、崩れた石積みの中を歩き回る )

それだけ、遺跡上に木々の根がはびこる様子は、私たちの想像を超えたイメージをかき立てることは間違いありません。打ち捨てられた建物内や空洞に、人知を超えた何かが潜んでいそうな不気味さを感じることも確かでしょう。

しかし、このトゥームレイダー:Tomb Raider、日本語に直訳すれば「墓荒し」、よく言って「古代墓所探査家」。目的の宝物さえ見つけられるのならば、文化財を破壊したり、異教の神の像を銃撃することなど何とも思っていないようです。

私も、他の皆様のブログで、この映画のことを知りましたが、タプロームやアンコールワットの登場した場面を見て、とても悲しくなりました。

いくら娯楽映画とはいえ、心の奥に潜む「あいつらは、ちょろいからな」的な思考が見え隠れしていたからです。

「もっと、宗教そのものに対する尊敬の念を持って接しなさい!」

「他文化を、自分たちの文化と同等に認め合う謙虚さを忘れてはいけません!」

TombRaidarS VG1
( 敵方も、クメールの神の像を破壊して宝の隠し場所に潜入 )
TombRaidarS VG3
( 神の像が暴れ出したので逃げる主人公ララ。次の場面では、寺院遺跡内にもかかわらず銃を乱射して撃退 )

「英米人の皆さん、宝が内部にあるからという理由で、パルテノン神殿の柱やエレクティオンの少女像を、忍法で折ったり、ぱっくり割った冒険映画を作ってもお互い様なのですね」

「『正義の主人公が、パリのノートルダム寺院の主祭壇を重機でつぶして、地下の隠し部屋を発見し、古文書を引っ張りだしたら、周囲のキリスト教の聖人像が突如、襲い掛かってきたので機関銃を乱射して、全部、木っ端みじんに吹っ飛ばして、無事、京都の屋敷に帰還』、というストーリーでも、娯楽映画ならば、宗教団体その他からのクレームはなしということですね」

TombRaidarSample (11)
( 貧しいながらも長閑なアジアの寺院と村人たちという感じの描写 )

「西暦3001年のローマは地球温暖化で砂漠となり、バチカンらしき遺構が残る廃墟で、ボロをまとった純朴そうな表情の村人が数人、祭壇の裏で午後の暑さをしのぐため、のんびり昼寝でも、文句なしですよ」

0009Aワット北濠祠堂遠景快晴1025
( 世界最高峰の宗教建築の一つとして優美な姿を見せるアンコールワット )

少しづつ、私たちは、お互いの文化を尊敬し合うという気持ちになっていることは、間違いないと思います。けれども、ときには、尊敬し合うという気持ちが一歩も二歩も後退してしまい、自国以外の文化を気軽に娯楽の対象にしてはいませんか?

日本人が作った娯楽映画で、ゴジラが皇居を踏み潰すのは、議論百出ながらも「あり」だと思います。けれども、アメリカ人が作った娯楽映画で、代表的なシーンが、スーパーマンが敵を倒すために伏見稲荷の鳥居を将棋倒しのように倒すのは「なし」だと思います。けれども、ホワイトハウスに立てこもった敵を全滅させるために核を一発お見舞いする場面ならば「あり」でしょう。

アンコールワットの旅から帰国して、噂に聞いた「トゥームレイダー」という映画を、DVDで初めて鑑賞した私の感想です。

2020年1月記                           了



意外に人気のタプローム遺跡

意外に人気のタプローム遺跡    2019年10月訪問

アンコールワット遺跡群のひとつ、タプローム寺院遺跡:Ta Prohm Temple は、この地区でトップ3に入る人気ぶりです。解説書等を見ると「密林の中に放置されたかのような遺跡感」が強く印象に残るからのようです。

実際に行くと、熱帯性の樹木の根が遺跡の上にからみついている光景が随所に見られます。これが、まさかの展開なのでしょうね。
0423タプローム内部 (4)
( 遺跡にからみつく木で有名なタプローム遺跡 )

けれども、このパターンはアンコールワット遺跡に慣れてくると基本風景のひとつであることが体感できます。

初めてか2番目の遺跡見物がタプロームですと、「わあっ、すげえ!」となります。

けれども、3つ目以降くらいですと、「ああ、このパターンね」となり、あまり感動しません。

私は後者の方でした。タプロームへ入る前に、もっと荒れた感じの遺跡に入っていたせいだと思います。もしかしたら、アンコールワット観光の超ダイジェスト版のコースのように、「アンコールワット日の出 → バイヨン → タプローム → アンコールワット本殿 → 夕日見物」の方が、記憶に深く刻まれるのかも知れません。中途半端に知ったかぶりをすると、タプロームの良さを感じにくくなってしまうようです。

御託を並べていてもつまらないので、タプローム寺院遺跡の雰囲気を感じましょう。ここも、正方形をしたヒンドゥー教の大伽藍跡で、密林に埋もれていた状態で19世紀後半に発見された当時の雰囲気で一般公開する方針のようです。

南北どちらかの門から入るのですが、外観は、いたって平均的な造りです。うっそうとした木々、黒ずんだ石、歪んで材木で補強されたりしている建物などが、密林の遺跡感を強烈にアピールしています。
0421タプローム前1022 (3)
( ここも正方形のタプローム遺跡全図 )
0423タプローム内部 (20)
0423タプローム内部 (19)
0423タプローム内部 (17)
(タプローム遺跡の外観と北門入口付近の境内風景 )

はじめは、「ふうん、森の中に取り残された寺の跡なんだ」くらいなのでしょう。アンコールワット遺跡群の中心部にあるポイントのひとつなので、意外と観光客が多く、けっこう賑やかな感じです。

しかし、少し奥に入ると、崩落した建造物と、無造作に積みあがった石材がいっぱい出てきます。アンコールワットやバイヨンでは、あまり、そういう場面はないので、初めてすさまじい崩落現場を見ると、びっくりするのです。

「げえっ」、「わああ・・」、「すごおい」、「きゃあ・・・」の世界になります。もしくは、「また、これね」です。
0423タプローム内部 (10)
( タプローム遺跡内を歩く大勢の観光客 )

堂々たる石造建築が、ものの見事に崩れ、石材が散乱している様子は、期待を大きくはずします。「こんなに崩れちゃっているの!」という感じです。そして、石材や壁も手でさわれるし、石を跨いでお堂跡の中に入っていけます。随所に立入禁止のロープが張ってありますが、順路に沿って見て歩くだけの遺跡ではないのです。ですから、余計に遺跡感、歴史感が出ます。本当は900年くらい前のものなのに、2~3000年前のように錯覚してしまうかも知れません。日本の法隆寺のほうが古いのに、こちらの方が何倍も古く感じてしまいます。

境内をさまよっていると、ちゃんと、木の根がからみついた建造物跡に出ます。有名な光景は境内に何カ所もあるので、どれが一番先に目に入るかは、運次第、ツアーの順路次第だと思います。
0423タプローム内部 (6)
( 有名な、木の根がからんだ寺院建造物 )

話に聞くとおり、なかなかユニークな光景です。石造りの屋根に雑草が生い茂っている程度の比ではありません。お寺に木が寄生している感が、しっかりと出ています。人工的に、このような場面を作ることはしませんので、見ごたえのあるシーンであることに間違いありません。たっぷり鑑賞し、いろいろな角度から眺め、思い出の記念写真をたくさん撮りましょう。
0423タプローム内部 (5)
0423タプローム内部 (8)
( 木の根がからみつく様子を近くで見る )

気持ちが落ち着いてくると、木の根に押しつぶされないように補強材が入っている、とか、観光客が見やすいように周囲の枝を払ったな、ということが分かります。前の写真の根は、遺跡の上に胡坐(あぐら)をかいているようです。

「うーーん、タプローム遺跡側も役者だなあ。『見せる』努力をしているぞ」と、思いました。

ですから、立入禁止でない限り、あちこちめぐり歩いて、崩落し、樹木にからまれ、苔むしたタプロームを存分に見物しましょう。高めの敷居を跨いだりするので、次第に汗がにじみ出し、足も疲れてきます。
0423タプローム内部 (9)
( 崩落し、苔むすタプローム遺跡境内 )
0423タプローム内部 (16)
( 木の根がからむ姿の記念撮影スポットもある )

日当たりが良く、木の根の形も良い場所には、ちゃんと、お立ち台が作られていて記念撮影が手軽にできるようになっています。放置しすぎて、木の根に登ったり、ナイフで引っかいたりして荒らされるよりは、こうした方が断然、保護効果があります。私も、遺跡管理者の思惑どおり、ここで写真を撮っていただきました。

暑い中、約40分ほどでタプローム遺跡見物は終了。反対側の門に出て、次なる目的地へ向かいました。
お土産売りのオバサン、子供たちをかわしてトゥクトゥクに向かいました。
0421タプローム前1022 (1)
( タプローム遺跡南門 )

私の訪問した日は、韓国人、欧米系の小グループ客、日本人が多く、中国人は少ない感じでした。

雨季が早めに開けた快晴の日であったので、観光客そのものが少なかったようですが、人気のタプローム遺跡なので、見物人の姿が途切れることはありませんでした。

2020年1月記                              了



滅びの美アンコールワット

滅びの美アンコールワット        2019年10月訪問

アンコールワットは、とてつもなく壮大で精巧、そして幻想的ですが、いかんせん、過去のものであることは間違いありません。

15世紀以降も寺院としての命脈を細々と保ち続けてきたことは不幸中の幸いでした。周辺の他の遺跡に比べて破損や崩落、石組みのずれが少ないです。けれども、2回、3回とアンコールワットに入るにつれ、痛々しい場面が視野に入いるようになりました。
0655Aワット外周と廊下内1022 (4)
( 正面と塔の頂上が崩落した西の塔門 )

しっかりと作ってあったので、荒れるがままでも、よくぞ20世紀まで持ちこたえたと言うべきでしょう。王朝時代に財力をつぎ込んで造営しただけに、メンテコストはかかる、坊主どもは贅沢三昧、細工職人は無尽蔵に必要だったはずです。

また、アンコールワットは、寺院としての息吹きがほとんど感じられません。強欲坊主も考え物ですが、あまりにがらんどうなのも寂しいものです。ここが、過去のものであることを、ひしひしと感じました。

人類のたぐいまれなる叡知も、自然の摂理の中で、静かに最後の日々に向かって時を刻んでいました。あきらめと無念の思いで眺めるからこそ、アンコールワットは美しいのでしょう。

主塔に向かう参道の両脇の石の欄干も、かなり破損しています。ところどころに鉄筋が露出していて、数十年前のずさんな修復工事の跡も見えました。応急措置とはいえ、興ざめでした。

0657Aワット正面全景昼頃1022 (6)
( 崩れてなくなった参道両脇の石の欄干 )

十字回廊一帯の屋根も、よく見ると、あちらこちらで剥がれています。ぱっと見では、気づかない程度でしょうが、確実にに経年劣化は進んでいます。このくらいの修復でも、きっと、かなりの予算と期間が要るのでしょう。

0661Aワット第2回廊ざっと1022 (2)
( 屋根のところどころが剥がれた十字回廊一帯 )

第1回廊と第2回廊の間の緑地に建つ、経蔵と言われている建物も、かなり崩落が進んでいます。石の表面も、ごげ茶色に変色していて痛々しい感じです。見せ場のひとつではないので、当面は放置するしかないようです。
0755Aワット午後第2回廊奥の主塔1025 (3)
( 崩落の進む経蔵らしき建物 )

アンコールワット観光のハイライト、第3回廊や主塔も、ぱっと見こそ威風堂々で優雅な曲線美を見せていますが、基礎部分はかなり崩れていました。崩落した石材が、あちこちに無造作に積み重ねられています。

第3回廊へ昇る急階段の足乗せ部の大半は崩れて無くなっていました。十数年前までは、この状態の階段を観光客も上下したとのこと。まさに、恐怖の階段だったようですが、その恐怖に打ち克って上がれたときの感動も、さぞかし大きかったような気がします。暑さと、冷や汗で、全身汗だくだったのではないでしょうか。

0667Aワット第2回廊から見上げ1022 (5)
0765第3回廊への急階段その3
( 第3回廊周りの崩落した石材と、欠落著しい急階段 )

でも、どういう理由で、急階段の足乗せも欠けていくのでしょう。あまり、張り出しもないので欠けにくいような気がするのですが、委細は分かりません。
0663Aワット第3回廊全体風景1022 (2)
( 主塔の基礎部も崩落の危険性大の様子 )

アンコールワットの中心である主塔も、よく見ると、ところどころで石材が剥がれていました。石の隙間から雑草が顔をのぞかせている場所もありました。このままですと、確実に隙間は広がり、水が入って割れやすくなるでしょう。わかっていても、簡単に、雑草を引き抜いたりできないようです。

とても痛々しい場面が多かったですが、それでもなお、アンコールワットは美しく気高い姿を保ち続けています。気長に修復に取り組み、いつまでも世界中の人々を惹きつけて止まないことを願っています。

「あまり、入場料も上げてほしくありません。値上げしても維持修復費に全額は回らずに、上の方のポケットへ入る部分が何割か発生するだけでしょうから・・・・・・・」


2020年1月記                               了

アンコールワットの日の出イリュージョン

アンコールワットの日の出イリュージョン   2019年10月訪問

アンコールワットの日の出は、一度は見ておいた方が絶対によい風景です。
1101Aワット日の出直前 (3)
( アンコールワットの日の出と、逆さアンコールワット )

ガイドブックや体験者が絶賛するとおり、この世でトップクラスのイリュージョンです。午前4時に早起きし、トゥクトゥクやツアーの追加料金を払って見る価値は、十分すぎるほどあると思いました。観光客もいっぱいいるのでショーのような雰囲気でした。マナーを守って皆んなで幻想的なひとときを楽しみましょう。

ただし、晴れていて太陽がきちんと見えることが最低条件です。前日の天気予報は絶対チェックです。

雨季にアンコールワットの日の出を見ようという方、ツアーなどで日の出の見物日が決め打ちされた方は、運悪く雨天か曇天に当たってしまうかも知れません。けれども、ドンマイです。どうか、気を取り直して、いつの日かアンコールワットの日の出を見るためだけに、この地へ戻って来てください。しばらくは、アンコールワットは崩落しないと思います。

1100Aワット日の出前の遠景シルエット
( 10月末の午前5時20分に朝焼けのアンコールワット遠望 )

私は、前日に予約したトゥクトゥクに乗って5時15分ごろにアンコールワットの入口に着きました。東の空が、うっすらと明るくなってきています。枕草子「春はあけぼの、やうやう白くなりゆく・・・・・・・」そのままの展開です。

1101Aワット日の出朝焼け濃く (1)
( アンコールワットの影を背後にして見物客のスマホの明かりが点滅 )
1101Aワット日の出朝焼け濃く (2)
( アンコールワットの夜明けイリュージョン )

大勢の観光客について歩き、池のほとりに陣取ります。その日は、正面向かって左側の池が工事中であったので、右側の池のほとりに行きました。体験談などを読むと、左側の池からの眺めがベストのようです。

池の周りを歩く見物人のスマホのライトが点滅している様子は、ホタルが飛んでいるような雰囲気でした。空気は、10月末といえども、やや涼しい程度。気温は、おそらく25℃くらいはあったと思います。半袖のうえに1枚羽織るか羽織らない程度で、生暖かい感じでした。

日の出が近づき、明るい紫色に染まってきた空を背景に、アンコールワットの5本の塔の影が、くっきりと浮かびあがる様子は、言葉で言い尽くせないほど荘厳でした。大勢の観光客も、ほとんど無言で、刻一刻と明るさを増す東の空に視線を集中して、日の出ショーを見守っていました。パシャリ、パシャパシャとカメラのシャッター音が響くばかりの時間が過ぎて行きました。

1101Aワット日の出直前 (3)
( 逆さアンコールワットもばっちりの快晴無風の日の出 )

池の水面には、見事なまでに「逆さアンコールワット」がゆらぐことなく映っていました。当日は無風で、池のスイレンや雑草も、うまく端の方へ寄っていたので、水面をかき乱すものがなかったことは幸運でした。

すっかり周囲が明るくなって周囲に目をやると、大勢の見物人がいたことに改めて驚きました。当日は、欧米系の個人客が多く、ツアーの人は少ない感じでした。日取りや場所によっては、声高に話すツアー客に、せっかくのムードをぶち壊されてしまった方もいるかも知れません。そういう人達には、みんなで「しっーーー」とやりましょう。
1101Aワット日の出見物人 (1)
( 紫色の空の下で、写真をときどき取りながら日の出を待つ )

ホントに、世界中から、この数十分のイリュージョンを実体験するために多くの人が集まっています。私も、思い立ったが吉日で当地に来て、アンコールワットの日の出体験ができ、大変満足しています。
1102Aワット日の出後の池
( 日の出見物に集まった世界中の人々 )

太陽が地平線に顔を出すころになると、空は紫色からオレンジ色に変わります。建物の背後にお日様は出ているので、アンコールワットは濃い灰色のシルエットになって浮かんでいました。神秘的という雰囲気から、ロマンチックな感じに変わってきています。

1102Aワット朝日と奥に影ある (2)
( 淡いオレンジ色の空に影を差すアンコールワットの塔5本 )

建物の間から太陽が昇ると、周囲は一気に早朝ムードに変身しました。

アンコールワットは、正確に東西の軸に沿って建っているので、春分と秋分の日には、主塔の真上に太陽が昇り、見事な日の出風景となるようです。そういう日には、朝5時の開門と同時に、走って行って好位置をキープして日の出を待つのでしょう。究極の日の出体験をされた方の話を読んでみたいものです。
1103Aワット朝日にシルエット 近景


1104Aワット朝もやの人混み
( 朝日がアンコールワットの回廊の上に顔を出した頃 )
1104Aワット日の出直後の鏡池
( 朝日が昇り切った頃の正面右側の池と見物人 )

朝ぼらけのアンコールワットの池の周りは、やや緩慢なムードが漂っています。人々のざわめきも増しました。みんな、早起きと、立ちんぼで少々疲れてきたのです。私も、いったん、ホテルに引き上げることにして、アンコールワットを幾度となく振返りながら、ゆっくりと出口の方へ向かいました。

1104Aワット陽光に輝く外周
1105Aワット朝焼けの外周 (1)
( 朝日を真正面に浴びてオレンジ色に輝く西の塔門 )

朝は、西の塔門が順光です。昼間には黒ずんだ色の門が、きれいなオレンジ色に染まっていました。少しだけ冷気を含む空気の中で見る西の塔門は、滅びゆく前の最後の輝きを放っているようでした。
1105Aワット早朝仮橋付近
( 朝日に影を作る西の塔門と仮設橋 )

午前6時45分ごろのアンコールワット出入口付近です。森の上まで高度を上げた10月の太陽は強く輝きはじめていました。薄くなったオレンジ色の空の彼方に影絵のように浮かぶアンコールワットの姿を最後に目に焼き付けました。


2020年1月記                   了


這い上がれ!アンコールワット第3回廊

這い上がれ!アンコールワット第3回廊  2019年10月訪問

アンコールワット観光のハイライト、中心部の第3回廊に上がりました。

急傾斜の階段を這いがった先には、神々しいけれども命を失って静寂のみが残ったような雰囲気の主塔が、悄然(しょうぜん)と屹立(きつりつ)していました。
1166Aワット第3回廊から主塔晴天13時1022 (1)
( アンコールワット主塔(中央祠堂)。地上からの高さ64メートル )

第3回廊は、現役時代は王族など特権階級のみの空間だったとのことです。

けれども、遺跡となった今は誰でも昇れます。ただし、回廊内は100人の定員制です。混雑時は1人降りたら、1人入れるという仕組みなので、ときには30分待ち、1時間待ちだそうです。月に4回ほどある仏教の指定日にも登楼禁止です。

アンコールワット見物に数時間しか割けない方は、けっこう第3回廊に入れずじまいのようです。「ああ、何と残念!京都の清水寺に来て、舞台に出ないようなものです!」

0662Aワット第3回廊登り口1022 (1)
0662Aワット第3回廊登り口1022 (2)
( 第3回廊への登楼口 )

第3回廊へ上がる階段は、急傾斜もいいところです。どうして、こんなに急傾斜にしたのか私には理解できません。日本の江戸時代風の家の2階へ上がる階段も、現代人から見ると急傾斜なので、昔の人は、それなりに考えることがあったのでしょう。

現在は、オリジナルの階段の上を覆うように観光用の木製階段が取り付けられています。それでも、写真のように直登に近い感じです。シニアの私も、一瞬、登れるかどうか迷いました。せっかくここまで来て、それも待ち時間なしで登れるチャンスを逃す手はありません。「手すりもあるし、ええい、ままよ」と登った結果は、大満足でした。
0662Aワット第3回廊登り口1022 (4)
0662Aワット第3回廊登り口1022 (6)
( 第3回廊に登る急傾斜の木製階段 )

1152第3回廊への急段石組み見上げ15時 (1)
( 第3回廊への急階段。現在、昇降できるのは1カ所のみ)

それにしても、つい10年程前までは、観光客でも足場の欠けた急階段を昇り降りできたというのですから、その大らかさに驚きです。王侯貴族、高僧たちと同じ気分を味わってほしいということだったのでしょう。シニアの私には、あちこちが欠けた急階段を降りる自信が正直ありません。

ガイドブック等によると、危なそうだからと言って、後ろ向きに降りるのは危険度が増す方法なのだそうです。下が見えないので、余計、足を踏み外してしまうことになるようです。

第3回廊の床面を歩くと、下段とはかなり異なる広々とした眺めが目に入りました。それだけ、天に近くなったことが実感できました。

1160Aワット第3回廊見晴らし西北
( 第3回廊から西側の表参道方向を見る )
1160Aワット第3回廊展望北側
( 第3回廊からの周囲の森の眺め )

参道以外は、四方を鬱蒼(うっそう)とした森に覆われています。往時は、こんなだったはずはありません。王朝滅亡後およそ600年という時間が、周辺の集落を森に戻したのだと思いました。

1166Aワット第3回廊から主塔晴天13時1022 (1)1165Aワット第3回廊主塔曇天13時 (2)
( 第3回廊の中心にそびえる主塔。床から約35メートルの高さ )

第3回廊の中央に進んできて、主塔を見上げると、聖なる山のてっぺんを仰いでいる感じがします。
その一方、観光客の動き以外の生命力を全く感じません。ひたすら、黒ずみ、ところどころ歪んだ巨大な石造物が鎮座しているだけです。

私が登楼した日は、観光客もまばらでした。ゆっくりと歩き回る数人の人影が見えなくなると、ただただ静寂のみが残りました。ヒンドゥー教由来の神々の像が、じいっと私たちを見ているわけでもありません。
塔の上を動く白い雲の姿は見えますが、風の音は聞こえません。

人類の英知を感じることはできますが、クメール王朝ありし日の賑わいを想像することは難しいです。その反面、欲深で権威を振りかざしていたかも知れない当時の僧侶の態度に惑わされないでアンコールワットを感じるという幸せをつかんでいるのかも知れません。

心ゆくまで、ゆっくりと主塔を見上げ、雲を追いかけ、石の床に座ってアンコールワットに来た歓びをかみしめました。
1166Aワット第3回廊の主塔基礎1022 (2)
1168Aワット第3回廊東方より北塔か



1167Aワット第3回廊から北塔と右主塔
0665Aワット第3回廊その他風景1022 (8)
( 主塔の基礎部分と回廊の風景あれこれ)

主塔の基礎部分に数体の仏像がありました。ここが、今は仏教寺院であることが分かります。
仏様の像は、目立たず、ひっそりと観光客をやりすごしているようです。
「私だって、始めから、ここの主ではないのだよ」と、寂し気なつぶやきが聞こえてきそうでした。

1171Aワット第3回廊主塔下現代仏像 (4)
1171Aワット第3回廊主塔下現代仏像 (1)
1171Aワット第3回廊主塔下現代仏像 (2)
( 主塔の基礎部のくぼみに安置された仏像 )

四面に安置された仏像のひとつは、とてもハンサムな顔つきでした。これなら、「うん、仏教もいいかも」と、ときめきそうなスマイルです。彫刻士の腕とセンスが良かったようです。宗教を問わず、神の像や顔は、心が休まるような魅力を持っていることが大切だと、しみじみ感じました。合掌。

2020年1月記           了






アンコールワットのいかついデヴァターたち

アンコールワットのいかついデヴァターたち        2019年10月訪問

アンコールワット遺跡群と聞くと、ついつい壮麗でユニークな形の建築美を想像しますが、実は、レリーフ、彫像類も見事でした。
1131Aワット全景斜め南より1025
( 熱帯の午後の陽光に映えるアンコールワット全景 )

私も、現地へ来てそのことに気づき、アンコール遺跡の素晴らしいレリーフに見とれてしまいました。ヒンドゥー教に題材を得ているものの、レリーフには神あり、象あり、戦争あり、生活あり、そして女神ありです。特に、デヴァターと呼ばれる女神に模した上半身裸の女性像は必見です。不勉強のため、なぜ上半身裸なのか分かりません。

ガイドブックなどによると、モデルは、当時の宮廷にいた女官を中心に本物の女性であったため、二つとして同じ表情のデヴァターはないのだそうです。

「ヒンドゥー教の現世的な面が良く分かる成り立ちですね」
「そうですよ。何事も本能の赴くままに」

そういう訳で、デヴァターを見れば、何人もさわりたくなるのは仕方ないことだと思いました。その、おさわりのお蔭で、デヴァター像はくっきり、すっきり目立っています。手垢の色も混じって、赤っぽく黒光りしている場面は、とても魅力的でした。いけないこととは知りながら、私も、ちょっと手が出てしまいました。

アンコールワットの十字回廊から第2回廊と第3回廊の間あたりには、すぐそばまで寄れるデヴァターが壁にいっぱい並んでいます。まずは、とくと、ご覧あれです。
0025Aワット午後第2回廊レリーフ1025
0667Aワット第2回廊壁デヴァダー1022

0743Aワット午後第2回廊レリーフ1025 (10)
0743Aワット午後第2回廊レリーフ1025 (9)
(アンコールワット内のデヴァターいろいろ)

「どうです!」と、誇らしげに紹介したかったのですが、アンコールワットのデヴァターたちは、イマイチです。

顔がいかついのです。

そして、彫りが浅いのです。

これでは女神の魅力半減どころか、ほとんど面白みがありません。

アンコールワットの女神を彫った職人たちセンスは、玉に傷のレベルです。あるいは、王様の美意識が現代人と大きく異なっていたのでしょうか。

「いっぱい、きれいどころはいたはずなのに、どうしてこうなるの?」

魅力的なデヴァターを見るなら、他の遺跡を試すべきです。むしゃくしゃしたので、顔なしデヴァターも紹介して終わりです。
0748Å第2回廊踊り子デヴァダー1025
( 花園のダンシング・デヴァター )

2019年12月記                               了

落書き見やるアンコールワットの十字回廊

落書き見やるアンコールワットの十字回廊      2019年10月訪問

アンコールワット見物の順路は、第1回廊の次は十字回廊である場合が多いです。第2回廊の影があまりにうすく、人の列が十字回廊に向けて進んでいるからです。
0743Aワット午後第2回廊レリーフ1025 (4)
( 左の角が、十文字の中心の十字回廊 )

十字回廊は、堂内の通路が、ちょうど十文字に交差する場所にちなんでいます。その付近が参拝者の目を惹きつけることからつけられた呼称のようです。
0735Aワット午後第2回廊天井その1
( 石組みもぴったり十文字に組み合わさった十字回廊中心 )
0661Aワット第2回廊ざっと1022 (3)
( 十字回廊内部の列柱。保存状態は良い方 )

このあたりの石組みは、あまりずれがありません。女神のデヴァターも、ぴったり合わさって美しい姿を見せてくれているので、歩いていても満足感が高いです。赤っぽい石の色も、少し華やかさを出していると感じました。

石柱の裾が削られていますが、天井に巣くっていたコウモリのフンが床に積もり、石柱が化学変化を起こして溶けてしまったためのこと。かつては、かなり荒廃していたんだなあと思いました。

十字回廊の一角には仏像が安置されてあり、お坊さんが待機しています。アンコールワットが現役のお寺であることが唯一感じられる空間です。お布施を出すと、お祈りをしてもらえるようです。私は、読経をお願いしなかったので、お布施の相場は分かりません。

0661Aワット第2回廊ざっと1022 (4)
( 十字回廊の隅に祀ってある仏像と参拝客 )

十字回廊の仏像近辺の柱には昔の落書きがいっぱいあります。日本人の落書きもあると聞いていたので、参拝者の邪魔にならないように柱を見て回りましたが、どうも見落としたようです。200年から300年前は、きっとこのあたりが参拝の中心だったのですね。お布施を多めに出し、「お坊様の目を盗んで、ちょっと記念に」という感じだったのでしょうか。

0747Aワット午後第2回廊落書き1025 (3)
0747Aワット午後第2回廊落書き1025 (2)
0747Aワット午後第2回廊落書き1025 (1)
( 十字回廊の柱周りにいっぱい書かれた昔の落書き )

落書きで一番多いのが漢字。中国人が落書き好きとは思いたくありませんが、何世紀も前から、それなりに行き来が多かったことの証でもあるようです。

日本人の落書きの主は、17世紀前半の朱印船貿易の時代の訪問者で、森本右近太夫一房(もりもと・うこんだゆう・かずふさ)という武士のもので、1632年1月のものだそうです。他にも、日本人のもの思われる落書きが10カ所以上あるようですが、詳しいことは、Wilipediaや詳細ガイドを当たった方がよいでしょう。

当時の日本人は、アンコールワットのヒンドゥー的な建造美や、権力から打ち捨てられた状況を見て、どう感じたのでしょう。クメール王朝が滅亡して200年しか経っていない時期であったので、アンコールワットも、まだ、凛として聳えていたのかも知れません。仏教寺院に改宗され、人気の少ない堂内を歩き、コウモリの群れに声高に叫ばれながら、往時の栄耀栄華をしのんだのでしょうか。

2019年12月記                          了


すっ飛びアンコールワット第2回廊

すっ飛びアンコールワット第2回廊     2019年10月訪問


アンコールワットの第2回廊は、ほとんど、がらんどうです。
0743Aワット午後第2回廊レリーフ1025 (2)
( ほぼ、がらんどうのアンコールワット第2回廊 )

ガイドブックを見ると、かつて仏像がいっぱい並んでいたけれども、クメール・ルージュ政権の時代に破壊されたり持ち去られたというようなことが書いてありました。
0024Aワット第2回廊ざっと1022 (5)
( 第2回廊近くの十字回廊内にある首無し仏像など )

真偽のほどは分かりませんが、アンコールワットの内部にも首無し仏像が少なからずあることは事実です。「人間が作った文化財の最大の破壊者は人間である」ということを、如実に示す例のひとつです。アフガニスタンのバーミーヤン大仏の爆破しかり、パリのノートルダム寺院や沖縄の復元首里城の火災しかりです。

クメール王朝政権が衰退後、あんまり”かまって”もらえなかったアンコールワット遺跡は、石組みが多少歪んだり、目立たない場所が崩落した程度で600年間は何とか持ちこたえているのですから、まことに慶賀の至りというべきだと感じました。
1140Aワット第2回廊ぐるり1022
( 背後に横たわる第2回廊は不人気 )
0768第3回廊壁面デヴァダー1025
( 第2回廊のデヴァター像。長年さわられた跡がなくきれいなまま )

それでも、せっかく来たんだからと思い、私は第2回廊内をそそくさと一周しました。回廊内は、落石などで半分くらい通行禁止になっているので、入れる場所に、なるべく入って歩いてみたというのが正解です。

第2回廊内や壁際にも見物人はまばらなので、壁面のデヴァター像も、なでなでされた跡がありません。「作った当初はこんな感じだったんだ」と、改めて感じ入って見ました。このデヴァターは、石組みの歪みがほとんどないので、とてもすっきりとしています。顔つきが少々”いかつい”のが不人気の原因ですね。

第2回廊は、ところどころに第1回廊へつながる階段があり、ちょっと顔を出すと、そこそこ手入れされている緑地が見えます。回廊の四隅にある塔は、上半分が崩れかけていて、アンコールワットといえども、崩落が他人事ではないことを、ひしひしと感じます。経蔵らしき石造建築も半壊状態で、かなり痛々しい外観です。それだからと言って、安易に修復すると、でたらめな出来映えになってしまい、かえって見苦しくなるのだと思います。

それなりの資金を長期安定的に得て、こつこつと復元、修復を進めるのが最適そうです。
1140Aワット午後第2回廊外側中庭と建物何? (1)
1140Aワット午後第2回廊外側中庭と建物何? (2)
( 第2回廊と第1回廊の間の緑地や、半壊した経蔵らしき建物 )

結構お高い値段の私たちガイジン観光客の入場料も、腹黒い輩にピンはねされることなく、従業員や修復費にきちんと回るよう願わずにはいられません。

2019年12月記                              了


長すぎのアンコールワットの第1回廊

長すぎのアンコールワットの第1回廊   2019年10月訪問

皆んなにくっつくようにしてアンコールワットの第1回廊に入りました。

第1回廊は、長々と続く壁面いっぱいに途切れることなく彫ってあるレリーフがとても有名です。
0731Aワット全景午後の影快晴 (4)
( 第1回廊に登る正面階段 )

正面の階段を上がると、玄関口のようなところで道が正面、左右の3つに分かれます。

時間がない人は真っすぐに進んで本堂の中央部を目指します。普通の人は左右いずれかに曲がります。右折して反時計回りに進んだ方が有名ポイントに早く着きます。
1135Aワット第1回廊アップダウン1022
( 第1回廊は昇降個所がいっぱい )

階段数段分の敷居を次々と越えて、第1回廊を一周しました。この高い敷居は何カ所もあるので、足腰の弱い方は、ゆっくり歩きましょう。

人間の胸の高さくらいのレリーフは、昔、手でさわれたようですが、今は、おさわり禁止です。
デヴァターと呼ばれる女神の像や王様の像を中心に黒光りしています。手垢(てあか)と、もともとの石材の色が混じっているようです。黒光りしている方が、陰陽がはっきり出て見やすいです。ですから、ちょっとは、さわった方がいいのかも知れません。

レリーフの蘊蓄(うんちく)は、たくさんの方が書いていますので省略。私もガイドブックをときどき見て、有名ポイントをはずさないように周りました。

ヒンドゥー教の古典「マハーバーラタ」や「ラーマーヤナ」などを知っていると、感動が人一倍大きくなると思います。
1138Aワット第1回廊レリーフマハーバーラタ1022 (1)
1138Aワット第1回廊レリーフ2世の行軍1022 (2)
( 戦闘の場面のレリーフ。とても有名 )

「よくぞ、ここまで彫ったもんだ」
と、あまりのレリーフの多さに感動するやら、疲れるやらでの観光です。屋根の下とはいえ、気温も30℃以上あって蒸し暑いので、ときどき水を飲みながら進みました。

上半身裸のデヴァターのレリーフも、随所にありました。現世と直結したようなヒンドゥー教の世界観は、見方によっては、とても親しみが湧きます。ただし、物語が長くて複雑なのには閉口します。「ああ、インド文化」です。

「一神教のような、単純な勧善懲悪ではないのだから仕方ないですよ・・・・・・」、というデヴァターのささやきが聞こえてきました。

アンコールワット遺跡観光は、湿気と暑さとの闘いです。
1137Aワット第一回廊レリーフ乳海攪拌
( 乳海攪拌の前後のレリーフもモノトーン )

このあたりのレリーフはモノトーン。天井も単純な三角形で、第1回廊周りでは一番シンプルな空間です。

ヒンドゥー教の教義による、世界の始まりを彫った「乳海攪拌」(にゅうかい・かくはん)という有名なレリーフの近くです。だんだん疲れてくることと、時間の押した観光客が多いせいか、正面裏側あたりまで足を伸ばしてくると、めっきり人通りが減ります。

煩悩に身を焦がしていたら、本物のデヴァター候補に出逢いました。履物を脱ぎ、お坊様に案内されて拝観しているお姿の、何と神々しく美しいことでしょうか。
1135Aワット第1回廊レリーフで僧と美女1022
( 現代のデヴァター候補とお坊様 )

現世の誘惑たっぷりの情景ですが、お坊様は修行の成果でしょうか、まったく動揺している様子がありません。

こちらは、天井のレリーフを見たりして気を紛らわします。

お菓子の落雁(らくがん)がいっぱい並べてあるかのような光景です。天井までレリーフがある遺跡はアンコールワットなど極少数です。いかに特別で豪華で精巧に造られたお寺であるか、ということを、改めて感じました。

「いやあ、やっぱり来て良かった」
「順番の初めにアンコールワットにやってきて、気力あふれているうちに見るもんだあ」

1137Aワット第1回廊レリーフ天井1022
( 第1回廊の天井の美しいレリーフ )

第1回廊は、とても長いです。外側は開けていますが、意外と風通しはよくありません。そのため、汗はひかず、足は疲れてきます。けれども、この辺りは、まだ道半ばどころか、3分の1くらいです。

少し休んでから先に進みましょう。個人客なのですから、あせらずに観光しました。

1135Aワット第1回廊列柱1022
( 第1回廊の東側の静寂と周囲の森 )
1135Aワット第1回廊外で記念写真1022午後
( 第1回廊内側の中庭と記念撮影中の人たち )

遠くから見るときれいに見えるアンコールワットも、中へ入って見ると、あちこちで崩落しています。屋根が落ちていたり、建物が崩壊して石の山になっている場所もありました。観光の目玉になっている場所は、それなりに修復されています。いかに、ここが巨大で複雑な造りであるかが分かりました。

それに、撮影ポイントもいっぱいあります。いわゆるインスタ映えする遺跡です。主塔のみならず、あちらこちらで記念撮影をしている人々に逢いました。私も、他の方にお願いして、あちらこちらで写真を撮ってもらいました。

今、見ても、アンコールワット感がたちどころに出ている写真が多いです。
「いやあ、すごいもんだ、ここは・・・・・。」

2019年12月記                           了

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